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藤井聡太五冠の「14歳で難関の三段リーグ1期抜け」は62年ぶり最年少記録… 棋士への関門〈奨励会〉の実態を分析してみた
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph byTadashi Shirasawa
posted2022/04/02 11:02
2017年6月の藤井聡太四段。奨励会三段リーグを1期で抜けて棋士の道へと駆け上がった
藤井は2012年8月、関西奨励会に杉本昌隆七段(現八段)の門下で6級で受験して合格。その後、2014年6月に初段、2015年10月に13歳で三段に昇段した。
2015年10月に始まった三段リーグには、1カ月遅れで出場できなかった。師匠の杉本は半年間の空白を心配し、仲間の棋士たちに依頼して藤井の実戦機会を設けた。
師匠・杉本八段からの激励に奮起
藤井は2016年度の三段リーグ前期に出場するに際して、2期目のつもりで臨んだ。最初から昇段を目指していた。
しかし初日は1勝1敗で、内容も良くなかった。勝利を意識して硬さもあった。そこで以降の対局では、勝負にあまりとらわれず、最善手を探し求めることを心がけた。その結果、前半戦で7勝2敗の成績を収めた。後半戦では昇段争いに加わり、12勝4敗で最終日を迎えた。残り2局で1勝すれば、四段昇段の可能性が高かった。
藤井はその数日前、杉本に「心配していないから……」と激励されると、師匠の信頼に応えたいと強く思った。
三段リーグの最終日は、東京の将棋会館で一斉対局が恒例となっている。藤井は前日に東京に単身赴任している父親の滞在先に泊まり、当日は父親と一緒に出掛けて会館に向かった。
藤井は午前の1局目に坂井信哉三段に敗れた。「もうダメかと思った」という。しかし競争相手も敗れ、午後の2局目で勝てば昇段できる状況になった。相手は前述の西山三段。
藤井は、自分の実力をすべて出し切ろうと気持ちを切り替え、師匠の言葉を思い出したという。そして西山に勝ち、四段に昇段して棋士になった。14歳2カ月での四段昇段は、加藤一二三・九段の14歳7カ月の最年少記録を62年ぶりに塗り替えた。
難関の三段リーグを1期で突破は、過去に数人しかいない
難関の三段リーグを1期で突破した例は、藤井を含めて過去に数人しかいない。それは将棋が強いだけでなく、何かに導かれた結果ともいえる。大成する棋士こそ持っている勝負運なのだ。
藤井はその後、棋士デビューから新記録の29連勝を達成するなど、現在まで快進撃を続けている。
そんな藤井が三段リーグで5敗もしたのは不思議な気がするが、短期間で実力をめきめきと伸ばしていったことにほかならない。
ちなみに三段リーグで藤井に勝ったのは、谷合廣紀(現四段)、山本博志(現四段)、本田奎(現五段)、西田拓也(現五段)、坂井信哉(後に退会)である。
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