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オリンピックPRESSBACK NUMBER
「ちょっと照れる感じはあるんですけど…」19歳平野海祝に聞く、最強の兄・平野歩夢を超えられるか?《世界記録メソッドの誕生秘話》
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byAsami Enomoto
posted2022/03/31 11:01
北京冬季五輪の男子スノーボードハーフパイプに出場した平野海祝。最強の兄・歩夢を追う19歳のロングインタビュー
ヒールサイドをグラブして体を反り返らせるメソッドは、シンプルなトリックである。シンプルだからこそ味わい深く、各人の色を表しやすい技であるとも言える。ただし、高度に競技化が進んだ現在のハーフパイプでは、難易度の高くないメソッドを入れた構成では高得点は望めない。もし海祝が予選から無理矢理ルーティンに組み込んでいたら、決勝進出はおぼつかなかっただろう。自分の滑りをアピールする“とっておき“は決勝で――。海祝はそう心に決めていたのだ。
「でも7m飛んでいなかったら、話題にもならなくて、メダルを取れない滑りをした自分に後悔したかもしれない。自分は本番でそこをバシッと決められた。なんだか全てがうまくいったんじゃないかと思います」
ある意味メダルを度外視した海祝の挑戦は見事にハマった。メソッドは回を追うごとに高さが伸びていき、3本目では7.4mにまで達した。ハーフパイプの深さ7.2mと合わせれば、ビルの4階ほどの高さまで飛び上がったことになる。
時速300kmを超えるレーシングカーや身長2mを超えるプロレスラーと同じように、空高く舞い上がるスノーボーダーのエアには本能に訴えかける問答無用の説得力がある。海祝の特大のエアも世界中の人々の心を捉えた。その滑りにはジャッジの採点だけでなく、重力や時間の摂理からも解き放たれたような自由さがあった。
「メソッドもいろいろな形があって自分もその日によって変わったりするんですけど、オリンピックの時は結構いいメソッドができましたね。脚がもう頭のところまで上がっていて、すごく好きな形でした。メソッドの形でいうとベン・ファーガソンに似ていたりすると、ちょっとテンションが上がるんです。ベンとゲイブの、あの兄弟のスタイルって結構すごいと思っているので」
パイプの中に入っていくドロップインの瞬間にもこだわりがあった。滑り降りていくというよりは、猛スピードで飛び込んでいくようなドロップイン。これはバンクーバー五輪のショーン・ホワイト(米国)に影響を受けたものだという。
「ショーンのドロップの仕方が一人だけ違ったんですよ。一人だけポーンと飛んで入ってきた。小さい頃はそういうの見て『うわ、やっばいね』って思ってました。ひたすらドロップする研究もしてました。ドロップする時にどれだけ飛べるかっていう練習も(笑)。今回の自分はあの時のショーンよりもっと距離も出ていたと思います。あのぐらい根性出していかないと無理ですよ。7mも飛べない。やっぱり根性が必要ですね」
なぜ高く飛べるのか?「どんな状況でも練習してきた」
ただし、勇猛果敢に猛突進さえすれば、誰でも海祝のように高く飛べるというわけでもない。そこには練習に裏打ちされた技術と感覚も求められるからだ。