ブンデスリーガ蹴球白書BACK NUMBER
蓄積した疲労もあった香川の骨折。
ドイツでの反響とリハビリの壁。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byTakuya Sugiyama
posted2011/02/02 10:30
今季絶望がほぼ決まり、ファンに向けて発言した香川。「これからの半年で人生が変わるくらいの経験ができると思っていたが、それができなくて寂しい」
「自分の精神的な準備が甘いのかなと感じるし」
あるいは、普段は恵まれた環境でプレーすることが出来ているから感じる葛藤もある。ドルトムントのホームスタジアムであるシグナル・イドゥナ・パークは、ブンデスリーガで最多の収容人数を誇る。その数80720人。8万を超えるファンが一体となり、ときに歌い、ときにスタンディングオベーションで、香川をたたえている。それが香川の日常だ。カタールのアジアカップでは、スタンドとピッチの距離が離れ、観衆はせいぜい2万人。大歓声は望めない。耳をつんざくブーイングさえ、聞こえてこない。一方でゴール前にボールが飛んだだけで、妙な盛り上がりを見せることもある。
「こういう雰囲気というのはなかなかね、モチベーションが上がらないと言ったら変だけどね。格下とか、同じようなレベルの相手に対しての準備という意味では、自分の精神的な準備が甘いのかなと感じるし。こういう環境の中で、雰囲気の中で、自分の力を発揮できるだけのメンタリティは、まだまだ……。だからこそ、課題かな」
長いリハビリ生活でメンタリティの強さが試される。
ドルトムントではライバルのレバンドフスキがゴールを決めた次の試合での香川のゴール率が、他の試合のそれよりも高い。また、前半戦でチームトップのゴールを決めながら、その半分以上が決勝ゴールだ。
現地の番記者たちが香川を高く評価するのは、意外にもテクニックや得点力ではなくて、メンタリティである。
大一番や重要な局面で爆発的な活躍を見せることを裏付けるような事実が、ドルトムントの香川の前には積み上げられている。その反面、ちょっとしたきっかけで爆発力が影を潜めてしまうこともある。長所と短所はコインの裏表の関係にあるのだ。今大会の日本代表の試合の中では、その傾向が顕著だった。
ドルトムントへと戻った香川は、チームドクターとも相談しすぐに手術に踏み切ることを決断。本人の希望で、東京にて手術を受けることとなった。手術には成功したものの、その後には長いリハビリ生活が待っている。高く、険しい壁に直面した香川が試されるのは、メンタリティの強さ。香川自身が「課題」に挙げていたものである。
そう遠くない将来――怪我も課題も克服しないといけなかったと苦々しく振り返ることになるのか、怪我を克服したとき、課題も克服できたと笑えるのか。香川がピッチに戻ってきたときに、すべては明らかになる。