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蓄積した疲労もあった香川の骨折。
ドイツでの反響とリハビリの壁。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byTakuya Sugiyama
posted2011/02/02 10:30
今季絶望がほぼ決まり、ファンに向けて発言した香川。「これからの半年で人生が変わるくらいの経験ができると思っていたが、それができなくて寂しい」
きっかけは、日本サッカー協会が発表した一つのプレスリリースだった。
1月26日の夕方、香川真司が右足の小指の付け根を骨折したというニュースをドルトムントより先に日本サッカー協会が発信したために、日本人記者のもとにはドイツ人記者からの問い合わせが相次いだ。
いち早く情報をつかんだ『キッカー』誌が速報を打ったが、そこからはクラブの混沌とした状況が伝わってくる。
「今日、日本サッカー協会から火曜日(1月25日)の試合で真司が骨折した疑いがあると知らされた。一刻もはやく、真司が帰国できるように働きかけていく」
ドルトムントのシュネック広報部長は、静かに、淡々と仕事をこなしていく普段の様子からは想像もできないような厳しいコメントを残している。監督やスポーツディレクターに先んじて、広報部長が語っているあたりに、混乱のあとが見て取れる。
「特別な存在」の骨折にドルトムントからは嘆きの声が。
ただ、少なくとも現時点では、訴訟などの話は出ておらず、ドルトムント側からは慎重なコメントと嘆き節、そして香川真司への同情がほとんどだ。
「僕たちは心を痛めている」(MF/ヌリ・サヒン)
「とてもつらい。我々にとって彼は特別な存在なんだ。シーズンは残り3カ月半しかない。骨折であれば復帰するのは厳しいだろう。復帰する前にシーズンは終わる。まずは、監督とスポーツディレクターと一緒に、この状況について話すことになるだろう」(ヨアヒム・ヴァツケCEO)
「我々にとって大きな打撃だ。あのような怪我で(シーズンの残りの期間である)3カ月以内に戻ってくるのは難しい。ただ、我々はシンジの回復のために最適な方法を探す」(ユルゲン・クロップ監督)
ドーハ空港でフラッシュを浴びる香川は打ちひしがれていた。
1月27日、ドイツへ戻るためにカタールのドーハ空港へやってきた香川を待っていたのは、30人を超える報道陣だった。
香川らの乗った車が出発ターミナルに着くなり、一斉にフラッシュがたかれる。原技術委員長らがトランクを開けてから取り出した松葉づえをついた香川は、わずか数メートルの距離を進むのにも時間がかかった。その間もフラッシュは音を立て、光り続ける。国外に強制退去を命じられた犯罪者が現れたのかと見まがうほどの、酷い光景だった。写真を撮られるのが苦手で、ドイツから日本に帰国する際に空港で異常な数の報道陣がカメラを向けてくることについて、頭を悩ませていた香川は、負傷のショックを抱えている中で、どんな気分だったのだろうか。
香川は悔しさをにじませて取材に答えていた。痛めたのは、2009年に負傷したのと同じ個所であった。痛みが走ったのは、アジアカップ準決勝、韓国戦の後半、足を強く踏み込んだときだったという。本人が報道陣の前を去ったあと、原委員長は「声もかけられないほど」に香川が落ち込んでいたことを明かした。