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日本企業のデザインで進む“バルサのカンプノウ改築”建築士に直撃!「100年先を見越した計画へ」「再開発には5つのプロジェクトが…」
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byDaisuke Nakashima
posted2022/03/21 11:00
特別にカンプノウで撮影した日建設計のメンバー。“新カンプノウ”はどんなものになるのだろうか
野村「数試合だと、ある程度の機材を揃えるだけでOKが出るかもしれないですが、年間を通してとなると芝もしっかり管理しなくてはいけない。全てのラ・リーガの試合、UEFAの試合をやるとなると、しっかりした設備を整える必要があると思います。
我々としては正直、スタジアムを使いながらやるってすごく難しい。夏に集中して工事をやっても、シーズン中はミッドウィークの試合も入ってくるので、ほぼ工事ができない。さらに一度立てた足場なども取らなくちゃいけないだとか、安全対策もしっかりやらなければならない」
伊庭野「実際、1990年代にカンプノウのピッチ状態が悪かった時に、一時的にオリンピック・スタジアムを使っていたことはあるそうです。工事的にはすごくメリットがある話なので、我々としてはありがたいですよね」
ソシオのためにも「やるべき工事」である理由
――10年ちょっと前まではエスパニョールがホームで使っていたので問題なさそうに感じますが、当時と今では放送設備から異なるわけですね。
風間「席数が足りないのかもしれません」
伊庭野「カンプノウはソシオが大多数の年間シートを持っている。その分の席を確保しなければならないので、追加しなければいけないかもしれませんね」
――コロナの影響による遅れは生じました?
伊庭野「コロナ前に道路の工事は始まっていましたが、確かに1年遅れとは言わないけど、もう少し早くスタートを切れていた可能性はあります」
――コロナによる経済的なダメージも大きかったと思いますが、プロジェクトに支障はなかったのでしょうか。
伊庭野「伝統と歴史のある既存のスタジアムを改修し、使いながら工事していこうというのがFCB側の希望で、それは土地を買って新しいスタジアムをゼロから建てるよりも経済的に負担が少ない計画だと思います。
カンプノウは1957年に完成して以来、もう60年以上が経過しており、構造体の老朽化が著しい箇所が多く見受けられます。また、メインスタンド側にしか屋根がなかったり、動線計画も複雑だったりと、いろいろと改善するべきところがあります。その中で我々の提案は、見た目を派手にしようという計画ではなく、今スタジアムが抱えている問題を改善しながら、それを整理してデザインを良くしていることなので、実は無駄にお金をかけているところがほとんどないんですよ。FCバルセロナのソシオのことを考えても、やるべき工事だと理解しているので、何とか実現して頂きたいと願っています」<第2回に続く>
野村映之(のむら・てるゆき)/1977年東京都出身。王立英国建築家協会認定建築士。2001年に明治大学理工学部建築学科卒業後、単身渡英。ロンドンAAスクール修了後にグリムショウ・アーキテクツにて空港や駅舎等に携わった後、ウインブルドン・テニスコートのマスタープランにてスポーツ施設の設計を始める。2014年に日建設計に入社後は、ザハ・ハディド・アーキテクツらと共に新国立競技場の設計を担当(後に白紙撤回)。2016年からバルセロナに駐在し、カンプ・ノウの設計業務に携わる。兄はプレミアリーグなどの実況を務めるフリーアナウンサーの野村明弘。
伊庭野大輔(いばの・だいすけ)/1979年東京都出身。一級建築士。東京工業大学大学院建築学専攻を修了後、2006年に日建設計に入社。渋谷駅や六本木の再開発プロジェクトなど、国内外の多くのプロジェクトに関わった後、FCバルセロナの新カンプノウ計画のコンペティションを担当。2016年からバルセロナに駐在し、カンプ・ノウの設計業務に携わる。中高とサッカー部、大学ではアメリカンフットボール部に所属。
風間宏樹(かざま・ひろき)/1980年長野県出身。一級建築士、構造設計一級建築士。慶應義塾大学大学院開放環境科学専攻を修了後、2005年に日建設計に入社。構造設計者として慶應義塾大学三田キャンパス南校舎・東京理科大学葛飾キャンパス図書館棟等の学校建築や多くのオフィスビルを設計。ザハ・ハディド・アーキテクツらと共に新国立競技場の設計を担当(後に白紙撤回)。2018年からマドリッド、2020年7月からバルセロナに駐在し、カンプ・ノウの設計業務に携わる。慶應義塾大学非常勤講師。
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