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オリンピックへの道BACK NUMBER
高梨沙羅と五輪の涙…世界一のジャンパーが自問自答してきた“なぜ五輪で勝てないのか?”「化粧、服装もそう。人間力を高めるため」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2022/03/11 17:46
北京五輪後すぐにW杯に参戦した高梨。1戦目リレハンメル大会で優勝すると、2戦目のオスロ大会も表彰台に入った
「選手の皆さん、講師の皆さんが、やっぱり最終的に勝敗を決めるのは『人間力』だっておっしゃっていたんですね。ああ、やっぱりそうなんだなって共感するところもありましたし、最終的にはそういうところが鍵となってくるのかなと思いました」
ジャンプに打ち込むがあまり、知らず知らずのうちに一人の人間として視野が狭くなっていたのではないか。ならば、新しい世界を知ろう、そう思った。
キーワードは「1人」だった。
化粧も服装も…すべては「人間力を高めるために」
大学に入学後、首都圏で単身生活を始めていた高梨は、自炊をはじめ1人で身の回りのことをしようと努めた。都心の慣れない複雑な交通網でも積極的に外出し、「街中で目についた食堂に、1人で入ってみたりします。それも人間力をつけることにつながるかなと思って」。
その中で、化粧も覚え、服装にもこだわるようになった。
「化粧、服装もそう。人間力を高めるために、本当にいろいろとやってきました」
ジャンプという狭い世界に生きるアスリートにとどまらず、年齢にふさわしい社会経験を持ちたい。自分に責任を持てるようになりたい。それが選手としての成長につながると考えていた。
もちろん、その姿勢はジャンプでも貫かれた。
2017年春から、とある試みを始めていた。
「合宿の期間、練習内容、合宿中のスケジュールも自分で決めています。もちろん、スケジュールも何もかもコーチに決めてもらって、それをやるだけの方が楽だとは思います。でも自分ですべてを決めて、すべての責任を持つことで、自分の身体をコントロールしているのは自分という意識付けもできると思ったんです」
視野を広げるために、練習後はゆったりとした時間を過ごしながら風景に、歩く人に目を向けることも意識した。競技と日常の切り替えができるようになれば、心に余裕を持てると考えたのだ。
こうして自分で自分を変える取り組みとともに、2017-2018シーズンを迎えた。
「(ソチは)自分の足じゃないような感覚でした」
「最後の最後まで自分の行動に責任を持ち、すべてを引き受けたいと思っています」
決意とともにオリンピックイヤーを過ごし、平昌五輪を迎える。