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マラソン“お喋り”シーンが話題に…優勝した“帝京大出身の元箱根ランナー”星岳が明かす「『そんなに余裕があるのか!』と思って…」
text by
和田悟志Satoshi Wada
photograph byJIJI PRESS
posted2022/03/05 17:00
2月27日に開催された「大阪マラソン・びわ湖毎日マラソン統合大会」で話題となったレース中の“談笑”シーン。この時、後方を走りマラソン初優勝を果たした星岳はどう見ていたのか
「後ろで走っているうちに、動きを立て直せた感覚があって、最終的には前に出られるくらい少し余裕ができました。動きが戻ってきて、タイムを確認したときに、初マラソン日本最高記録、さらには、2時間6分台もあるんじゃないかって思ったんです。
もちろん勝つことが一番大事です。ただ、タイムを出したいという欲が出てきた。難しい判断ではあったんですけど、ペーサーに使われても仕方ないと割り切って、前に出てタイムを狙いにいきました。結果的には、タイミングが良かったのかなと思います」
ここを勝負所と踏んで仕掛けたわけではなかったが、星は初めて先頭に立った。1km3分を切るペースに少しだけ上げると、山下と浦野がじわじわと離れていった。
2位以下との差は広がる一方だったが、それでも、山下の気配を背後に感じていた。
「何秒差あるか分からなかったんですけど、振り返ると後ろに山下さんが見えていたので、びくびくしていました」
最後の300m、左に折れてフィニッシュゲートが見えた時、ようやく星は勝利を確信することができた。社会人ルーキーながら、星の冷静さが光ったレースだった。
レースは常に後方…星の名前はほとんど読まれなかった
ところで、大集団で進んだ前半は、後方に位置取った。目立たない位置でレースを進めており、テレビ中継でも30km過ぎまでは、星の名前が読み上げられることはほとんどなかったのではないだろうか。また、大集団の混戦で、給水所では自身が準備したスペシャルドリンクを取れないことのほうが多かった。
「後ろのほうって決めていたわけじゃないですけど、余計に動くのはやめようと思っていました。給水も取れなくても大丈夫ぐらいの気持ちで、気楽に対応していましたね」
とはいえ、決して給水を疎かにしていたわけではない。取れなかった時は、周りのランナーから分けてもらうなどして対処した。
30kmの下りで川内優輝(あいおいニッセイ同和損保)と村山謙太(旭化成)が飛び出した場面でも、追おうという素ぶりは決して見せなかった。
「仕掛けているのは見えていたんですけど、まだ力を使う場面ではないなって思っていたので、反応はしないようにして、力を溜めておこうと思いました」