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マラソン“お喋り”シーンが話題に…優勝した“帝京大出身の元箱根ランナー”星岳が明かす「『そんなに余裕があるのか!』と思って…」
posted2022/03/05 17:00
text by
和田悟志Satoshi Wada
photograph by
JIJI PRESS
数々の名勝負が繰り広げられた伝統ある大会「びわ湖毎日マラソン」と、人気の都市型マラソン「大阪マラソン」が統合され、初めての大会が2月27日に開催された。
2024年のパリ五輪への第一歩となるこの大会では、フレッシュな顔ぶれが上位を席巻。そして、激戦を制したのは、帝京大出身の社会人1年目、23歳の星岳(コニカミノルタ)だった。
大阪のコースは、カーブやアップダウンも多く、折り返しが5回もある難コース。記録が出にくいのでは……と目されていたが、星は2時間7分31秒の初マラソン日本最高記録を打ち立てる快挙をも成し遂げ、優勝を果たした。
話題の談笑シーンが目の前で「精神的にちょっときました」
35kmを過ぎて、大集団で推移していたレースは、すでに先頭集団が3人に絞られていた。箱根駅伝の2区(23.1km)が、星にとってこれまでの最長距離。練習では40km走を計2回(1月末と2月頭)経験していたものの、レースでは未知の領域に突入し、正念場を迎えていた。
「30kmを超えてからは、体に変化があり、きつさを感じていました」
自分自身とも戦いながら、先頭を走る山下一貴(三菱重工)に必死に食らいついた。
36km地点、今度はそれまで星の後方に付けていた浦野雄平(富士通)がするするとポジションを上げた。そして、話題となった場面を迎える。先頭の山下が後ろを振り向き、同学年の浦野に何か声をかけたのだ。
レース中に選手同士が言葉をかわすのは特別珍しいことではないが、白い歯を覗かせるほどの談笑はなかなか見られない。しかも、レースは終盤。いよいよ勝負が決しようとしている局面なのだ。
「それまで山下さん、僕、浦野さんという順の隊列でしたが、きつくなってしまい、僕が離れかけた場面でした。それで、浦野さんが僕の前に行ったんですよね。会話の内容までは分からなかったんですけど、2人が話しているのは見えていて、『そんな余裕があるのか!』って思って、精神的にちょっときました」
2人の表情は読み解けなくとも、2人が覗かせた余裕度に、星は思わぬダメージを受けた。それでも、2人に離されまいと必死に粘り、この局面を耐え抜いた。すると、今度は星自身に余裕が戻った。37.4㎞、左腕に着けたウォッチを確認すると、星はすーっと前に出た。