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興奮する選手に「俺とやるか?」、客の投げたパイプ椅子が直撃…“最強のレフェリー”和田良覚が「嫌われてナンボ」の仕事を続けるワケ 

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澤田将太

澤田将太Shota Sawada

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2022/03/04 17:00

興奮する選手に「俺とやるか?」、客の投げたパイプ椅子が直撃…“最強のレフェリー”和田良覚が「嫌われてナンボ」の仕事を続けるワケ<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

長いキャリアの中で、数え切れないほどの試合を裁いてきた和田良覚。一部では“最強のレフェリー”とも称されている

「実際にやった奴にしかわからない」格闘技の危険さ

――ちなみに、なぜレフェリーに格闘技のトレーニングが必要なのでしょうか?

 レフェリーは打撃の威力やダメージだったり、技が入っているかどうかを見極めたり、関節の取り合いをしている選手の動きを見定めて適切なポジションを取らないといけないからです。選手の気持ちがわかるようにもなりましたし、結果として格闘技の経験はものすごく意味のあるものになりました。声をかけてくれた前田さんと高田さんには本当に感謝しています。あれを乗り越えたのは僕の誇りです。

――他のレフェリーの方も格闘技のトレーニングを積んでいるんですか?

 人によりますね。でも、レフェリーとして僕が本当に信頼できるのはやっぱり経験者です。MMAでは、梅木良則や豊永稔は同じ苦労を経験したUWF出身の後輩であり同志ですから、信頼しています。あとは、日本ではほんの数人だけですね。僕も彼らもパンチやキックで鼻を折ったり、ローやボディの痛み、失神、眼窩底骨折、関節技や絞め技まで全部知っていますから。どれだけ打たれたら止めないといけないのか、関節を極められたら危ないとか、これは実際にやった奴にしかわからない。プロじゃなかったとしても、本気で格闘技と向き合わないとレフェリーなんて務まらないですよ。

――レフェリングにおいて一番大事なものはなんですか?

 まずは、人の命と人生を預かっているという自覚と、確固たる信念と志。そして正確なルールの把握と遵守です。スキルとしては、乱打戦でも冷静に見極めて、必要以上の“加撃”をさせないことですね。意識が飛んだ瞬間に打たれたら脳へのダメージが重くなってしまいます。主にMMAや立ち技では脳、プロレスでは頸椎を守ることが大切です。どんな試合であっても、選手の身の安全が第一であることは言うまでもありません。

――過去にミスをして重大な怪我をさせてしまったことは?

 それはないと思いますが、若干止めることが遅れたり、安全を優先するあまり早く止めすぎてしまったことはありますね。いずれにせよ、ドンピシャのタイミングはなかなか難しい。場合によっては試合後に判断の理由を伝えたり、選手に謝るようにしています。他にも小さなミスはいまだにしますし、試合後の反省会や帰りの電車ではだいたい1人で自己嫌悪に陥っていますね。完璧なレフェリングって、それくらい難しいものなんです。

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