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2週間出場ゼロ→山本由伸と最優秀バッテリー賞「大逆転の1年」を過ごしたオリックス若月健矢が語る“寅威さん”へのライバル心 

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米虫紀子

米虫紀子Noriko Yonemushi

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photograph byNanae Suzuki

posted2022/03/01 11:00

2週間出場ゼロ→山本由伸と最優秀バッテリー賞「大逆転の1年」を過ごしたオリックス若月健矢が語る“寅威さん”へのライバル心<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

山本由伸や山崎颯一郎(左)らとのバッテリーでリーグ優勝に貢献した若月健矢捕手。出番がない時期を乗り越えて掴んだ自信を新シーズンに生かす

 中嶋監督は若月に試練を与えた印象が強いが、実は、かつて飛躍のきっかけを作ったのも中嶋監督だった。

 若月の記憶では、2017年秋のフェニックス・リーグでのこと。サンディエゴ・パドレスへのコーチ留学から帰国し、日本ハムのGM特別補佐としてフェニックスリーグを訪れていた中嶋のもとに、若月はアドバイスを求めに行った。当時のオリックスの福良淳一監督(現GM)が「中嶋に会ったら聞いてみたらいいよ」と勧め、話を通してくれていたのだ。

 特に影響を受けたのがスローイングのアドバイスだった。若月は送球に移る際、右足のつま先を外側に向けていた。いつの頃からか、そうしなければいけないと思い込んでいた。しかし中嶋はそれを見て、「直接このまま(つま先を前にして)出せばいいじゃん」と助言した。

 実際には今も送球の際に若月の右足は外を向いているのだが、余計な「しなければいけない」という意識が1つなくなったことで、動きがスムーズになった。2017年に.255 だった盗塁阻止率が2018年には.306、そして2019年には.371を記録し、パ・リーグの盗塁阻止率トップとなったことと無関係ではないと若月は言う。

価値観が変わった「高めを使っていけ」

 中嶋がオリックスの一軍監督となってからも、時々ボソッと、しかし重要なヒントを与えてくれた。その一つが「高めを使っていけ」という助言だった。

「価値観が変わりました。それまでは(低めに)安全に安全に、となっていて、そういう(高めを使う)考えは自分の野球人生になかったので、新鮮でした。それが一番最初に言われたことで、今も鮮明に覚えています。最初はどういう使い方をしたらいいかわからなかったんですけど、『あそこじゃない』とか、『高めの中でもストライクゾーンで勝負』とか、『高めの高め』とか、いろいろと教えてもらって、すごく勉強になっています」

 昨年の日本シリーズでも、若月が山本由伸や山崎颯一郎をリードする際、時には立ち上がって構え、その後のフォークとの落差を際立たせるなど、効果的に高めを使った。

「スピン量が多いピッチャーをどうやって生かそうかと考えました。やっぱり低めばかりになるとピッチャーもしんどいと思いますし、バッターも、振るボールも振らなくなってしまいますから。そういうことを意識するようになったし、ピッチャーをよく見るようになりました」

【次ページ】 山本由伸と「最優秀バッテリー賞」

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