猛牛のささやきBACK NUMBER
2週間出場ゼロ→山本由伸と最優秀バッテリー賞「大逆転の1年」を過ごしたオリックス若月健矢が語る“寅威さん”へのライバル心
posted2022/03/01 11:00
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
Nanae Suzuki
悔しさ、楽しさ、プレッシャー、歓喜。
オリックスの捕手、若月健矢にとって2021年は、様々な感情に揺り動かされた1年だった。
前半戦は飢えていた。
2020年8月に二軍監督だった中嶋聡が一軍監督代行となってから、それまで正捕手だった若月の出場機会は激減した。昨年も「開幕当初は3人目(の捕手)という位置付けだった」と若月自身が振り返るように、序盤戦は伏見寅威や頓宮裕真がマスクをかぶる試合が多く、若月は2週間近く出番がない時期もあった。
「開幕後の最初の時期はフレッシュなメンバーや若手で行くというのは、しょうがないというか、自分もそうやってもらってきたので、何とも思わなかった。いつまでも『出してもらっている』ではいけない。つかみとらないと。自分もそういう歳、そういう年数になったんだなと思いました。その中で、腐らずにできた。そりゃ腐らないですよ。自分がそうやってもらっていた間、出られない人もいたわけですから」
昨シーズン中そう語っていたが、一番にあったのはやはり悔しさだった。
「やっぱり試合に出てなんぼ」
それでも腐らなかったというのは本当だ。出番がない日はブルペンにいて、リリーフ陣の球を受けたり、他愛もない会話を重ねた。やがて試合途中からの出場やブルペンデーの先発など、出番が回ってきた時にそれが生きた。
「本当に試合に出たくてしょうがなかったので、どんな場面であろうと、楽しかった。やっぱりプロ野球は試合に出てなんぼ。そこでもしミスをしてしまったら、また試合が遠のいてしまうので、すごく緊張はしましたけど、そんなこと言ってる場合じゃない。とにかく試合に出られる喜びと、やりがいをすごく感じました」
試合に出られない期間がプラスになった面もあったという。
「『自分に何が足りないのか』を考える時間になりました。リード面は固まった考え方になってしまっていたのかなと感じましたし、技術面でもまだまだやれることはいっぱいあると思いました」
高卒3年目から長く一軍でマスクを被り続けていたから、こちらもつい忘れていたが、若月はまだ26歳。試合に出られる喜びを思い出し、視野を広げる必要性に気づけたことは、今後の捕手人生に必ず生きるはずだ。