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2週間出場ゼロ→山本由伸と最優秀バッテリー賞「大逆転の1年」を過ごしたオリックス若月健矢が語る“寅威さん”へのライバル心 

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米虫紀子

米虫紀子Noriko Yonemushi

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photograph byNanae Suzuki

posted2022/03/01 11:00

2週間出場ゼロ→山本由伸と最優秀バッテリー賞「大逆転の1年」を過ごしたオリックス若月健矢が語る“寅威さん”へのライバル心<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

山本由伸や山崎颯一郎(左)らとのバッテリーでリーグ優勝に貢献した若月健矢捕手。出番がない時期を乗り越えて掴んだ自信を新シーズンに生かす

 もう一つ、印象に残っている助言は「やっちゃいけないことなんてないぞ」という言葉だ。

 山崎颯が先発した昨年10月15日の日本ハム戦でのことだった。

「あの試合は普段あまり投げないスライダーを結構使ったんです。試合前に監督に、『スライダーを使っていきたいと思うんですけど』という話をしたら、『やっちゃいけないことなんてないんだから、思い切ってやってみなよ』と言ってくれました。監督は、型がないというか、柔軟というか。僕も『柔軟に考えろ』とよく言われます」

 リードの幅を広げた若月は昨年後半、出場機会を増やしていった。優勝争いの中、「楽しいです。ピリピリしていますけど、充実している。今までと違う日常の中でできている」と充実感を漂わせていた。

 後半戦はエース山本とバッテリーを組んだ。「由伸と組むからには負けられない」というプレッシャーと、「勝ったら次も出られる」という希望の両方を抱えながら、死に物狂いで勝利に導き続けた。結果的に、若月がマスクを被り始めた7月9日以降の11試合、山本は負けなしの10勝でレギュラーシーズンを締めくくり、それが優勝の大きな原動力となった。

 山本と若月は最優秀バッテリー賞を受賞し、若月は「由伸さまさまです」と笑った。

花咲徳栄高時代から参考にしていた捕手とは?

 ただ昨年1年間の出場試合は68試合で、2016年以降で最も少なかった。昨年チームで一番多くマスクを被ったのは、91試合に出場した伏見寅威だった。

 若月が花咲徳栄高校時代、岩井隆監督に、「あのキャッチャーをしっかり見て参考にしろ」と言われたのが、当時東海大学に所属していた伏見だった。

「東海大の試合を観に行ったことがあったんですけど、その試合、寅威さんはほとんどのバッターに対して、1打席目2打席目3打席目と、入り球が違っていたんです。だからそういうところを見習っていけ、という感じで監督に言われました。映像もよく見ましたよ」と若月は振り返る。

 オリックスには伏見が1年早く入団したが、一軍捕手として先に定着したのは若月だった。伏見は打撃力を評価されたが、一、三塁や指名打者、代打としての出場が多く、一軍二軍を行ったり来たりの生活。2019年6月には左足アキレス腱断裂の大怪我を負い、長期の離脱を余儀なくされた。しかし20年8月に中嶋が一軍監督代行となって以降、出場機会が増し、昨年初めて2人の出場試合数が逆転した。

 しかし伏見は言う。

「若月のほうがキャリアは余裕でありますからね。昨年初めて僕のほうが試合数が多かっただけで、あいつのほうが場数を多く踏んできている。全然自分が勝っていると思っていません。追いつけ追い越せというか、刺激をもらっています。だって肩もあいつのほうが強い。キャッチングはたぶん僕が勝ってると思いますけど。あと年齢ぐらいですね、勝ってるのは(笑)。

 自分としてはやっぱり、ライバルだと思っています。一緒に練習していると、『あー、やっぱすげー球投げるな』とか、『やっぱうまいな』と思うんで、負けてられないという気持ちになる。ライバルであり、しんどさとか、いろいろなものを共有できるいい仲かなと思っています」

【次ページ】 「もちろん寅威さんはライバルです」

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