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ジュニアがシニアより強くなる? フィギュアスケートの年齢制限引き上げ議論が本格化《日本への影響は?》
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2022/02/27 11:04
北京五輪のショートは首位だったが、フリーではミスが続き、4位(暫定)となったワリエワ。演技後は涙が止まらなかった
フィギュアスケートはスケーティングなど時間をかけて取り組むことで向上する部分があり、それに伴い表現の深みも増していく。ただ、十代半ばが上位を占める現在、年齢制限が15歳のままなら、そういった成果を得る前に第一線から退く傾向が強まる。これが1つ目の問題点だ。
もう1つは競技人生が短くなることで観る側が長く応援する選手がいなくなっていくこと。これは観る側だけでなく、選手のその後の人生にも与える影響が大きい。日本選手は長い競技生活とともに観客を惹きつけ、引退後のセカンドライフにもつながるファンを獲得しているが、競技人生が短ければ、そういった機会も失われ、引退後の生活にも暗い影を落とす。
十代半ばの選手が高難度のジャンプを武器に活躍し、瞬く間に取って代わられる。ロシア勢を中心とした“低年齢化”が常態化することへの懸念から、年齢の引き上げがさけばれるようになっていた。
度を越した体重制限
その是非を巡る議論で、見過ごせないのは選手の健康の問題だ。「平昌五輪のとき水も飲めなかった」というザギトワの証言などが伝えるのは、明らかに過度の体重制限だ。体を極力軽くすることで、高難度のジャンプを跳びやすくする行為が健康面に影響を及ぼしているのは、ソチ五輪に15歳で出場し団体金メダルなどに貢献したユリア・リプニツカヤや、体重が33kgから59kgの範囲で増減していたことを明かしたエフゲニア・メドベデワらが摂食障害に苦しんできた事例からも浮き彫りになる。
まずは選手の健康管理や長く競技を続けられる環境が重要視されるべきだが、加えて年齢の引き上げを行なった場合、現状からするとジュニアがシニアよりハイレベル、という本末転倒の状況も生じかねない。シニアが成長したスケーターの競う場であるために、どうするべきかも課題となる。
また、年齢の区分が変われば、現場の指導にもその影響は及ぶ。近年、ロシアの選手たちが小学生、中学生の段階からハイレベルのジャンプを跳び、シニアになってからもそれを武器に活躍する姿は、他の国にも波及してきた。日本でも早い段階から、難易度の高いジャンプに取り組み、その中からトリプルアクセルや4回転ジャンプに試合で挑む選手が現れ、成功する選手も出てきている。