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JリーグPRESSBACK NUMBER
「あなたが佐伯さんですか。てっきり、どなたかの奥様かと」Jリーグ常勤理事が語る「圧倒的に男性社会」な日本スポーツ界の課題
text by
宇都宮徹壱Tetsuichi Utsunomiya
photograph byAFLO
posted2022/02/20 11:02
Jリーグの佐伯夕利子常勤理事は、2003年にスペイン3部プエルタ・ボニータの監督に就任。その後もスペインで指導者としてのキャリアを歩んでいる
「しかるべき役職の人が、ここまで踏み込んでくれた」
指導現場におけるハラスメントの問題は、ハラスメントを行う人たちだけと対立しても、まったく解決にはなりません。そもそも当事者自身が、なかなか変わることができない。というか、最後に変わるのが当事者なんだと思います。だからこそ、周りの人にこそ敏感になってほしい。ハラスメントの相談窓口に、電話やメールをするという手段もあります。
2019年に明らかになった湘南ベルマーレのパワハラ問題も、日本サッカー協会が設置している暴力等根絶相談窓口への投書がきっかけでした。結果として、当時の曺貴裁監督は辞任することとなりましたが、ハラスメントの当事者を裁き葬ることが目的ではありません。自らの過ちに気付き、認め、改めたならば、再び戻ってこられるJリーグでありたいと思っています。
幸い、曺さんは昨シーズンに京都サンガF.C.の監督としてJリーグの現場に復帰されて、見事にJ1昇格を果たしました。大変、素晴らしいことだったと思います。ただし、デリケートな話題を引用しながら「やっぱりすごい監督だった」と、極端かつ飛躍的なストーリーを作りあげるような傾向には、やはり慎重になりたいとも思っています。
今回、このような形での発信をさせていただいて、個人的に興味があったのが「反対派の意見」です。ハラスメントを擁護する人がいるとすれば、そこにどんな理由や理屈があるのか、深く理解したいと思ったんです。でもSNSをリサーチする限り、批判らしき書き込みはごくわずかで、それ以外は肯定的な反応ばかりでした。「しかるべき役職の人が、ここまで踏み込んでくれたことに意味がある」という、ありがたいご意見もいただきました。
実は私のJリーグ常勤理事の任期は、3月15日まで。いつもはスペインから理事会に参加しているんですが、最後は東京でホテル暮らしをしながら、お邪魔にならない程度にクラブ訪問をしたり、関係者の方々にご挨拶したりできたらと思っています。
私が理事に就任したのは2020年ですので、2年の任期はコロナ一色になってしまいました。そんな中、自分がどこまでJリーグや日本のサッカー界、さらにはスポーツ界に貢献できたかなというのは、本当に未知数でわからないです。駅伝に例えると、箱根の折り返しにもたどり着けなかった、志半ばといった感じですね。
日本という国について「人権リテラシーが極めて低い」と指摘しましたが、ヨーロッパが素晴らしくて日本がダメだと申し上げたいのではありません。今回、スペインに居ながら常勤理事という大役を仰せつかったことで、私はあらためてJリーグが素晴らしいスポーツ団体であることを認識できました。それは私の人生にとって、とてつもない財産となりました。
理事退任後は地球の裏側から、陰ながらJリーグを応援し続けたいと思います。