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JリーグPRESSBACK NUMBER
「あなたが佐伯さんですか。てっきり、どなたかの奥様かと」Jリーグ常勤理事が語る「圧倒的に男性社会」な日本スポーツ界の課題
text by
宇都宮徹壱Tetsuichi Utsunomiya
photograph byAFLO
posted2022/02/20 11:02
Jリーグの佐伯夕利子常勤理事は、2003年にスペイン3部プエルタ・ボニータの監督に就任。その後もスペインで指導者としてのキャリアを歩んでいる
ポジティブな感情がなければ「スポーツ」ではない
「スポーツ現場におけるハラスメントとの決別宣言」に話を戻します。冒頭、私は「教育現場について発言するのは収拾がつかなくなる」と申し上げましたが、やはり幼い頃から受けてきた教育というのは、非常に重要な意味を持つと思います。パワーハラスメントをしてしまった指導者自身が、実は過去にそういった指導を受けていたというのは、わりとよく聞く話です。
人間というのは、過去を忘れられる生き物なんですね。その一方で、残存していた記憶というものが、少しずつ上書きされていく。どんなに辛い思い出であっても、そこに意味を持たせないと、私たちは生きていけない。ですから部活でのしごきも、脳内で美化されていくんだと思います。だからと言って、暴力や暴言を伴った指導が継承されるべきではありません。
もともと日本の学校体育は、明治時代の兵式体操がルーツです。「前へならえ」とか「休め」とか、欧米の人が見たら本当にびっくりしますよ。高校サッカー選手権の開会式で、出場校の選手全員が整然と行進しているのも、彼らにしてみれば異様なものに映るかもしれません。
最近は「体育」ではなく「スポーツ」という言葉が、よく用いられるようになりました。スポーツならば、人と人が喜びを持ってつながる、共に競い合うことでワクワクする、勝利したり上達したりすることでモチベーションが湧く。そうしたポジティブな感情が存在するものでなければならない。そうでなかったら、それは「スポーツ」と呼ぶべきではないと思います。
加えていえば、スパルタやしごきを肯定する考え方について、いわゆる「昭和的」などの世代論でくくってしまうのも危険だと思っています。今回問題になった、ヴェルディや鳥栖の指導者は40代から50代ですけど、20代でもパワハラ気質の指導者は残念ながら存在します。ですから、これは「世代」ではなく「継承」の問題なんです。
私たちは、それぞれに身を置いている環境があり、そこに流れている文脈の中で成長していきます。これに教育や経験が加わることで、私たちの中で概念が形成され、良し悪しの判断ができるようになります。ただし子供たちは、環境というものを自分たちで選ぶことができません。だからこそ、子供たちに丁寧に接してあげるのは、私たち大人の責任です。「大人が変わらなければならない」というのは、そういうことなんだと思います。