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羽生善治九段、A級順位戦で連続29期や15連勝など偉大な実績も「降級危機」 大山康晴十五世名人ら過去の名人はどうだった? 

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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photograph bySankei Shimbun

posted2022/02/02 11:04

羽生善治九段、A級順位戦で連続29期や15連勝など偉大な実績も「降級危機」 大山康晴十五世名人ら過去の名人はどうだった?<Number Web> photograph by Sankei Shimbun

2021年1月、棋聖戦2次予選。羽生善治九段と森内俊之九段の対局の感想戦。ともに「永世名人」の資格を持つ偉大な棋士だ

大山、升田が公言していた「A級」へのプライド

 名人経験者の棋士にとって、A級の地位への思い入れはとても深いものがある。大山康晴十五世名人は「A級から落ちたら引退する」、升田幸三実力制第四代名人は「A級で負け越したら引退する」と、ともに公言していた。そうした規定は別にないが、名人に昇り詰めた矜持から、そんな強い意志に至ったのだろう。

 升田実力制第四代名人(A級在籍は連続31期・名人在位2期を含む)は、1979年に現役のA級棋士のまま引退した。1991年に73歳で死去した。

 大山十五世名人(A級在籍は連続44期・名人在位18期を含む)は、1992年に現役のA級棋士のまま69歳で死去した。

 その大山に降級の危機があった。1990年3月、大山は3勝5敗で最終戦を迎えた。対戦相手は同じ成績の桐山清澄九段。敗者は降級する可能性が高い深刻な対局だった。

 大山はA級から降級したら引退すると公言していて、50年に及ぶ現役生活が終わることになりかねない。しかし、いつもと変わらない平静な様子だった。東京の将棋会館で開かれた大盤解説会に400人以上の将棋ファンが訪れ、多くの人が大山の進退に関心を寄せた。会館全体に重苦しい空気が漂っていた。

 大山-桐山戦は熱戦の末に、大山が勝った。感想戦では安堵した表情になり、対局中は「昔の将棋ばかり、思い出していた」と語った。大山の勝ちが大盤解説会に伝わると、拍手が沸き起こり、中には涙ぐんだ人もいたという。

過去の名人経験者がB級1組に降級した後はどんな道を?

 名人経験者の棋士たちが、A級順位戦でB級1組に降級した後の進退や成績について列記する。

 塚田正夫実力制第二代名人(A級在籍は通算27期・名人在位2期を含む)は、1972年にA級から降級したが、1973年にA級に復帰した。1977年に63歳で死去したときは、B級1組に在籍していた。

 加藤一二三・九段(A級在籍は通算36期・名人在位1期を含む)は、1961年にA級から降級したが、1962年にA級に復帰した。その後、B級降級とA級復帰を3回も繰り返した。2002年以降はクラスが次第に下降していった。2017年にC級2組から降級し、規定によって77歳で引退した。

 米長邦雄永世棋聖(A級在籍は連続26期・名人在位1期を含む)は、1998年にA級から降級した。引退説が流れたが、フリークラスへの転出を表明した。「A級からの降級は熟年離婚したようなもの。新しい生き方を探す転機といえる」と語り、将棋の普及に意欲を燃やした。2003年に引退し、2012年に69歳で死去した。

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