箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
「シードまで30秒だ!」オリンピアンが給水員に? 東京五輪代表・山内大夢が走った“わずか数十mの箱根駅伝”
text by
和田悟志Satoshi Wada
photograph byAFLO
posted2022/01/21 17:04
箱根駅伝ランナーになくてはならない“給水員”。早大2区を走った中谷に水を手渡したのは、東京五輪男子400mハードル代表の山内大夢だった
「給水では転倒することもあり、ちょっと不安だったので、どういうふうに渡すのが一番いいのか、中谷に聞いたりしていました」
選手がベストを尽くせるようにサポートをするために、山内は準備に余念がなかった。
1区には給水がないので、2区10km地点が箱根駅伝で最初の給水地点となる。集合時間の8時20分に、集合場所の横浜市西区の浜松町交差点に行かなければならないため、前日は近くのホテルに宿泊した。
そしてレース当日の朝、「たぶんレースに集中している頃だろうな……」と思いつつも、中谷にLINEで『給水所で待っているよ』とシンプルなメッセージを送った。
水とスポーツドリンクを手渡し「シードまで30秒だ!」
集合時間の10分前には到着。その日の横浜は、最低気温が1度、最高気温が9度と一段と寒い1日だったが、スマートフォンでレースの模様をチェックしつつ、軽くウォーミングアップをし、寒空の下で中谷の通過を待った。
ライバル校の選手が一人、また一人と過ぎていくが、なかなか中谷は現れず、気ばかりが焦った。
中谷はようやく15位で姿を見せた。集団ではなく、単独走だったので給水は渡しやすかったが、上位争いをしているはずが、まさかのシード権圏外。中谷の左側を走り、水とスポーツドリンクを手渡すと、「シードまで30秒だ」とタイム差を伝えて、鼓舞した。
実は、山内は1年時に走路員として、反対車線から中谷の走りを見送ったことがあった。今度は給水員として中谷の伴走をすることになろうとは、3年前には思いもしなかったことだ。
「選手のすぐ横を走るわけですから、給水員の立場で箱根駅伝を見ると、やっぱりこれまでとはまた違った見え方がしました。沿道での応援は自粛となっていたので、例年よりも人は少なかったのですが、それでも、沿道の観衆の中を走るのは、すごいことだなと思いました。選手の脇をちょっと走っただけですが、自分も箱根駅伝を走った気分になれました。すごく貴重な体験でした」
その距離40~50m、時間にして10秒にも満たない。それでも、山内には不思議な感慨があった。
「彼はオリンピックで準決勝まで進んだ選手です」
中谷にとっても、山内からの給水は大きな力水になった。