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旗手怜央の「よろしくない言葉」に家本政明がとった行動とは? 変化したレフェリングの質「一緒にいいゲームをしましょうよ」 

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二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

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photograph byJ.LEAGUE

posted2022/01/13 17:01

旗手怜央の「よろしくない言葉」に家本政明がとった行動とは? 変化したレフェリングの質「一緒にいいゲームをしましょうよ」<Number Web> photograph by J.LEAGUE

2002年から積み重ねてきた審判としてキャリア。さまざまな経験を積んだことで、レフェリングにも変化があらわれたという

 目指す方向が正しかったと思えたエピソードがある。

 2020年シーズンのある試合において、判定を不服とする川崎フロンターレのルーキー、旗手怜央から「あまりよろしくない言葉」でなじられたことがあった。

 昔の家本なら即座にイエローカードを提示したことだろう。ただ今は違う。キャプテンの谷口彰悟と守田英正に近寄って「今の聞いてたよね? あとはよろしく」とだけ伝え、彼らに対応を委ねた。その後、プレーが切れたところで旗手はわざわざ家本のところまで駆け寄ってきて言動を詫びた。興奮して、つい口にしてしまうことはある。それをムキになってカードを出してしまったら、選手のためにも良くない。彼は試合後にもあらためて謝りに来てくれた。

「自分が何を言うかよりも、誰が言うかが大事。谷口選手、守田選手がどう伝えたのかは知りませんが、2人の言葉に旗手選手は納得したんだと思います。試合中ですから別に謝らなくていいのに……それも旗手選手の人柄だと感じました」

 近年はチームからも選手からもそしてファンからも信頼を集めるレフェリーとして認識されるようになった。

「いえぽん」としてSNSで積極的に発信

 視野を広げていく家本は次の行動に移すことになる。

 ルールのことやレフェリーのことをもっと知ってもらいたいと、ツイッターやnoteなどSNSを通じて積極的に情報発信し始めたのだ。“閉ざされた世界”をオープンにすることが、自分に課せられた役割だと考えた。

「審判の人柄や考え方が伝わっていないから敵対したり誤解も多い。もちろん日本サッカー協会、審判委員会が“守ろう”としてくれているのは理解しています。ただ今は情報をできるだけ開示してみなで共有していく時代ですから、審判界もその流れに合わせていく、もっというならば変わっていく必要があるんじゃないか、と。

 僕がレフェリングでミスをしたら、批判が凄いでしょう? だけど僕の場合、これまでボロカスに言われてきているわけですから、別に今さら何を言われたって大丈夫(笑)。まずはドアを開けて、たくさんの人と触れ合ってみる。考え方を伝えてみる。理解や信頼ってそこから始まるんじゃないかなって」

 距離感や親しみやすさを大切にしたいという思いからアカウント名は「いえぽん」。

 自分のレフェリングに対する説明やサッカーに対する見識、競技規則の解釈などその分かりやすさから反響を呼ぶことになる。批判は、ほぼなかった。むしろ好意的な反応ばかりだった。

 ルールやレフェリングを理解してもらえば、それはサッカーを深く知ることにもつながるし、サッカーをより楽しむことにもつながる。自分のため、レフェリーのためではない。あくまで日本サッカーの発展やみんなの喜びに貢献したいという思いが、積極的な発信に走らせていた。

 もっともっとレフェリー目線からサッカーの魅力を伝えたい。それを自分が率先してやっていきたい。

「レフェリーとして試合中こう対応していけば、こういう結果になるという形はだいぶできていました。なのでそろそろいいかな、と。ほかに優秀なレフェリーはいっぱいいるし、僕にしかできないことで審判とは違った立場でサッカー界に貢献していくべきなんじゃないか、と。そういう考えが大きくなっていったんです」

 2020年シーズン中、彼の心にチラついていた「プロレフェリー卒業」が段々と大きくなっていった。

#3に続く
プロポーズ直後の試合が、あのゼロックス杯…“嫌われた審判”家本政明48歳、大バッシング騒動を支えた妻への感謝とこれからの野望

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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