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欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
セカンドキャリアでは監督に? 指導者講習会に参加した長谷部誠の“神準備”にドイツが感嘆したワケ
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2022/01/09 11:02
フランクフルトで今なお存在感を放つ長谷部だが、セカンドキャリアを見据え、指導者講習会にも参加している
緊張する子供たちに見せたさすがの気配り
精力的に取り組む様子が、地元メディアやクラブの公式ホームページからうかがえる。例えば、フランクフルトのU-15チームで指導実践をする際には、U-15のヘルゲ・ラッシェ監督と練習前に入念な打ち合わせを行っていた。自分がイメージしている練習内容を伝え、バリエーションを考え、「U-15の選手たちは、このレベルに対応できますか?」と細部を確認していた。
フランクフルト公式ホームページの動画を見ると、「チーム1はマービン、アクガイ、ニロ。白(ビブス)ね」と、選手の名前を呼んで声をかけていた。
なんと長谷部は、この日の練習のためにU-15チーム全選手の名前とポジションを事前に覚え、練習ごとに誰がどのグループでプレーすべきか準備していたのだという。
ラッシェは「マコトが真剣に準備してきたことがわかり心を動かされたよ。今日、僕は必要ないくらいだった」と感嘆し、笑顔を見せていた。
僕は、これまで様々な指導者講習会や国際コーチ会議に参加したことがある。そこで、いろいろな指導者の指導実践を見てきた。地元の街クラブや育成アカデミーの育成選手を相手にすることが多いのだが、普段指導していない選手の名前を覚えてくる人物は、正直見たことがない。
だいたい、練習中に「名前はなんて言うの?」と聞きながら進めていく。それも1つのコミュニケーションスキルではあるが、選手からすれば、初めて会う指導者が自分の名前とポジションを知っていたら驚くだろうし、嬉しいはずだ。
しかも、それがフランクフルトのレジェンドである長谷部誠なのだ。
アカデミーの選手たちは、普段から長谷部のポジショニングや判断の確かさをビデオで学んでいる。長谷部のプレーそのものが、ドイツの子供たちの教材となっている。そんな選手が教えてくれるとなれば、緊張もするだろう。
そうした空気を察したのか、長谷部はピッチ上で選手一人ひとりと拳を合わせたあとで、「今日のトレーニングを楽しみにしてきたよ、みんな!」と、普段通りの柔らかな笑顔とともに挨拶していた。また、練習中のゴールシーンでは両手を突き上げ子供たちと一緒に喜んでいた。そうした気配りができるのはさすがの一言で、指導者としてもとても大切な要素であることは間違いない。
「指導者というのは確かに1つのオプションです」
「最初に言いたいのは、みんなと一緒にトレーニングできたのはすごく楽しかったということ。DFBによるこのプロジェクト、助けてくれたヘルゲと、みんなに感謝しています。自分のセカンドキャリアがどの方向へ行くのかはまだわからないけど、指導者というのは確かに1つのオプションです」
練習後、長谷部はクラブのインタビューで答えていた。もちろん始まったばかりだし、将来的にどんな道を選ぶのかはまだわからない。そして指導者への道を選んだとしても、フースバルレーラー・ライセンスは年間12人しか受講できない非常に狭き門で、やりたい思いだけではどうにもならない。
プロクラブの指導者となるのは簡単ではない。教訓のあるドイツは、他国より厳しいと言えるかもしれない。それでも長谷部は、期待したくなるだけの資質を持っていると思う。もちろん、過度な期待は禁物。そもそも、まだまだ現役選手なのだがら。とはいえ引退後の長谷部の活躍も、今から楽しみだ。《前編から続く》