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[好評企画]アーティストが語る羽生結弦歴代プログラムの美 紅ゆずる「銀盤に描く愛と死の物語」
posted2022/01/09 07:06
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph by
PHOTO KISHIMOTO
羽生結弦選手の演技を拝見するたび、その表現力の豊かさに心を動かされます。一つのプログラムの中にきっちり演技プランがあって、緩急がある。曲調に乗って感情を表すだけでなく、ときにフォルテの部分であえて繊細に、ピアノの部分で逆に強さを押し出すような表現もあり、見ている方がハッと心を掴まれてしまうんですね。
手先の動きもとても綺麗ですよね。宝塚時代、男役は衣裳から出ている部分が手だけなので、手の表現にはとても気を使っていました。羽生選手は指の先まで繊細に表現されていて、歌舞伎でいう「女形」のようなしなやかさ、たおやかさも兼ね備えていると感じます。
2011-'12、'13-'14シーズンの2度、フリースケーティングで演じられた「ロミオとジュリエット」は、主人公である「ロミオ」を演じるだけでなく、「ジュリエット」の物語をも表現しているように感じました。ジュリエットを思う優しさ、ジュリエットに向ける眼差し、という表現の先に、ヒロインの少女が浮かび上がってくる。特に女性が共感できるような不思議な柔らかさを備えた方だと思います。
「ロミオとジュリエット」は私にとって、本当に縁の深い作品です。宝塚時代の'10年にフランス版ミュージカルの日本初演として星組で公演した際にはロミオの友人のマーキューシオ役、'13年に大劇場公演として再演した際にはティボルト、ベンヴォーリオという二役を役替わりで演じました。実は稽古場では、主演の柚希礼音さんが演じられたロミオの代役もしていたので、男役の主要な役を全て経験し、様々な角度からこの物語と向き合うことが出来ました。