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[好評企画]アーティストが語る羽生結弦歴代プログラムの美 反田恭平「ショパンの想いに寄り添って」
posted2022/01/08 07:02
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph by
Ichisei Hiramatsu / Asami Enomoto
過去4シーズンSPで演じた『バラード第1番』。羽生はショパンの意図をいかに表現したのか。昨年10月、世界の舞台で輝いた音楽家が語った。
僕は2013年から留学のためロシアにいて、羽生選手のことはその頃から知っていました。ロシアの方たちにとってフィギュアスケートは国技のようなもので、授業中もよく話題になっていたんです。「日本出身なんです」と話すと、「羽生くんの国ね」と言われ、覚えてもらって(笑)。同じ日本人として誇らしい反面、'94年生まれの同世代としては少し悔しい気持ちも感じました。
昨年10月、僕は世界最古の音楽コンクール、「ショパン国際ピアノコンクール」に出場し、2位に入賞することができました。フレデリック・ショパンの“通訳者”を探すというのがこのコンクールの趣旨だと僕は受け止めて臨んだのですが、今回、そのショパンが作曲した羽生選手の『バラード第1番』を見て感じたのは、柔らかでありながらも確固たる核があるということです。そして、この曲をよく理解しているな、と。和声感や1小節、1拍ごとに印象や風景、状況が変わり、0コンマ数秒から1秒程度の間で世界を作ってくれるのがショパンの作品。羽生選手はそういったものに合わせて演技されている。たとえば、ピアノでは左手で弾くバス音(低音)がボンと鳴るときに、彼は氷上を回りながら足で蹴っている。そういった動作からは、ショパンの作品の意図を表現し、観客へと伝えるようなものがあると感じました。