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「日本人が“消極的”なのは教育の影響が強い」外国人“鬼コーチ”はどうやって日本代表に「自信」を植え付けたのか?
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAFP/AFLO
posted2022/01/06 11:11
積極的に他ジャンルからも“吸収”するエディー・ジョーンズ。トム・ホーバスとの対談では、意外な人物の名前が飛び出した
トム 興味深いですね。私は東京オリンピックに向けて、若手が代表レベルで戦力となるためには「導き」が必要でした。なぜなら、日本の選手たちは自信がない傾向が強いからです。自信を持たせるためには、練習でプレッシャーがかかる状況を作り、彼女たちが厳しいレベルでの練習をクリアしてもらうしかない。
東京オリンピックでは、東藤なな子(21歳)、オコエ桃仁花(22歳)が代表入りしましたが、彼女たちにはコートでプレーする時の役割を徹底させました。東藤はディフェンス、オコエにはオフェンスのリズムを変えるといった役割です。若い選手は決められた役割で結果を出した方が、自信を持てるのではないでしょうか。彼女たちは、自分の立ち位置が分かって、チームに貢献できるチャンスが増えたと思います。
「自信」を植え付けるためのハードワーク
海外のコーチが日本人を指導する場合、選手自身の能力に対する「自信」と、チームが世界の舞台で戦えるという「信念」の欠如にぶつかる。これは日本人の受け身体質、消極性ともかかわっている問題だ。エディーさんとトムさんは、どうやって積極性を引き出し、自信を持たせるようになったのだろうか。
トム 高さとフィジカルで劣る日本が勝つにはどうすればいいのか? 正しい戦術を立案し、どの国よりも準備をし、どの国よりも練習をする。これに尽きます。2015年のW杯で南アフリカを倒したエディーさんも同じ考えではないですか?
エディー まったく同感です。我々独自のスタイルを構築し、それを実行するために前例のない長期合宿を行ったことで、あの結果が生まれたのです。日本では早朝5時からのフィジカルトレーニング、通称「ヘッドスタート」が話題になりましたが、それは表面的なことです。メディアは表層的なことにとらわれがちです。たとえば、朝5時に行う練習で選手たちの信念を醸成することはできません。きっと、トムは信じるに足る代表の強みを見つけていて、それを掘り起こしたのではないかと想像していたんです。
トム 私は2016年のリオデジャネイロ・オリンピックではコーチを務めていました。あのチームも実力はあったのに、準々決勝で敗れてしまった。もっと上に行けたのに、なぜそこで敗退したのか原因を探っていくと、格上のチームを倒すだけの自信を欠いていたことが見えてきました。
エディー 選手たちに自信を植えつけるために、ハードワークを課したのではないですか?
トム その通りです。自分たちが到達できると想像していない領域まで彼女たちを追い込むと、それをクリアしてくれました。当然、それは自信につながっていきますし、オリンピックを迎える時点で、世界中のどの国よりもハードな練習をしたことが選手たちの自信を生んだのです。
エディー きっとハードなトレーニングをする上で、トムが示した指針が正解だったのでしょう。ラグビー日本代表についていえば、W杯での歴史は「ノンパフォーマンス」の歴史です。過去にも練習の強度を上げたコーチはいました。しかし、指針が間違っていた。トムが話したように、しっかりとした分析と準備を行い、選手たちに武器を供給すれば自信が芽生え、目標達成は現実のものとなるのです。