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「日本人が“消極的”なのは教育の影響が強い」外国人“鬼コーチ”はどうやって日本代表に「自信」を植え付けたのか?
posted2022/01/06 11:11
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
AFP/AFLO
鬼コーチ対談の場で議題のひとつとなったのが、「ジェネレーションZ」へのコーチングの重要性だった。
エディーさんが率いるイングランド代表では、秋のインターナショナルマッチでZ世代の活躍が目立った。司令塔のSOマーカス・スミス(22歳)、FBとしてハイボールへの強さを見せたフレディー・ステュアード(21歳)と、日本でいえば大学生世代の選手たちが重要なポジションを担うようになってきた。
さて、エディーさんとトムさんは、この世代をどう捉えているのだろうか?
エディー 私はZ世代の選手たちは、チームという集合体に積極的にかかわろうとしていると考えています。意欲、忠誠心が高い。それに合わせ、私も選手に対してプレッシャーをかける時と、引いて見守るバランスを重視して指導するようになりました。練習で何か課題を与えるとしたら、最初の半分を指し示し、残りの半分は選手たちが自力で獲得するようにスタイルを変えています。
トム 20年前だったら、コーチがすべてを教え込むというスタイルでしたよね。
エディー その通りです。ミーティングはコーチが一方的に情報を伝える場ではなくなりました。選手たちを巻き込み、積極的に議論に加わらせるスキルも必要です。
トム 今のエディーさんの話で印象的だったのは、コーチがすべてを決めないということです。私はオリンピックでチームの「原則」、つまりフレームワークだけを決め、試合中の判断は選手たちに委ねました。すると、原則を理解した12人は、私でさえ驚くような創造的なプレーを見せてくれるようになったのです。これは本当にうれしかった。
エディー 20年前、コーチの仕事のほとんどは先頭に立って選手を引っ張っていくことでした。それが今は、後押しすることに仕事が変わってきたと思います。トムが言ったように、原則、つまりフレームワークを示して、その余白は選手たちが埋めていく方が、この世代にはマッチしているのでしょう。
福岡堅樹は15年W杯で活躍するべきだった
20歳前後の選手たちを代表戦で起用するとなれば、それなりの準備が必要となると思うのが普通だが、エディーさんの場合は2000年代にオーストラリア代表を率いていた時から抜擢を好み、トムさんは若手を戦力とするために、役割を限定したと話す。
エディー 本当に能力の高い選手であれば吸収力が高いので、すぐにインターナショナルのレベルでも遜色なくプレーできるようになります。マーカス・スミスとフレディー・ステュアードは、11月のテストマッチで、2019年のW杯決勝で敗れた南アフリカ相手に持てる力を発揮し、勝利へとつなげてくれました。この勝利で、間違いなく彼らの経験値は上がったでしょうね。インターナショナルのレベルで戦う能力がある選手であれば、私は起用を躊躇いません。
2013年、福岡堅樹を代表に抜擢した時は、彼はまだ筑波大学の2年生でした。大学の試合に出場していたのを見て、すぐに代表に呼び、すぐに代表戦でプレーさせました。それほど、能力が際立っていたのです。
福岡は2019年のW杯で大活躍しましたが、本来であれば2015年の時点で、あれくらいの活躍を見せるべき選手だったんです。それができなかったのは、日本の大学と、インターナショナルのレベルのギャップが大きすぎることが原因でした。日本はそのあたりの育成システムも考えなければいけません。