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「なぜ“トヨタの車作り”で出来ることが、バスケで出来ないのか?」外国人“鬼コーチが語る日本人を指導する原点
posted2022/01/06 11:12
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Naoya Sanuki/JMPA
現代のスポーツ界には、情報があふれている。
ラグビーでいえば、選手のジャージにはGPSが装着され、練習、試合中にどれだけ活動していたのかが数字で示される。1990年代に活躍していたFWの選手が苦笑いしていたことを思い出す。
「もう、サボれないですね」
バスケットボールでも、どの地点からのシュートが決まったか、チャート上で〇と×が示され、選手たちの情報は瞬時に世界で共有されてしまう。
エディーさんとトムさんのふたりは、データを駆使したうえで戦術を立案し、世界で成功を収めた指導者だ。
エディー 対戦相手が決まり、戦略を立てるためには裏付けが必要です。つまりは、データを重視することになります。2015年のW杯で戦うために、選手たちにはフィットネスとストレングスの数値を示し、到達することを求めました。朝5時からの「ヘッドスタート」によるトレーニングはこのエリアの補強を目指したものです。また、チーム全体においては、試合を重ねていくことでアタックの方向性を最適化する。たとえば、キックとパスの比率を意識することでゲームをデザインしていきました。W杯の前、日本の最適化されたアタックはパス9に対してキック1の割合でした。
あの時のW杯で南アフリカは、日本がどんどんアタックしてくると予想したはずです。南アフリカという国は、国そのものの歴史、そしてラグビーの歴史を振り返ると、「守ること」を好む国民です。ただし、単に守っているだけではない。守りつつ、ハードヒットによって相手にダメージを与えることを好むのです。ハードタックル、ターンオーバー、そこからカウンターアタックを仕掛ける。これが彼らのイメージだったはずで、だからこそ、あの試合ではパスでのアタックの割合を減らし、キックを蹴って、相手に攻めさせることを選んだのです。彼らは、戸惑っていましたね。
つまり、自分たちのスタイルをデータによって導き出す一方で、相手によって戦い方を変えたわけだ。エディージャパンではそれが奏功したわけだが、東京オリンピックのバスケットボールの女子日本代表は、3ポイントシュートに特化したチームを作った。
ホーバスが目指したバスケットボール
オリンピックでの3ポイントシュートの試投数、成功数、成功率はいずれもナンバーワン。アメリカのESPNのコメンテーターであるザック・ロウは、日本代表を「NBAのウォリアーズとロケッツから生まれた子どものようだ」と表現した。いずれもデータを重視しているチームで、特にウォリアーズは大きなセンターに頼らず、外から3ポイントシュートを雨霰と降らせて、頂点を極めたチームだ(今季も好調)。トムさんはウォリアーズのスタイルを代表に持ち込もうとした。
トム 私が女子代表のヘッドコーチになったころ、ウォリアーズがNBAを制し、王者にふさわしいスタイルのバスケットボールを披露していました。2017年当時、世界の女子バスケは3ポイントシュートとスペーシングについて、男子と比べるとずいぶん後れを取っていました。
21世紀になってずいぶん時間が経っているのに、女子は男子の1980年代や1990年代に流行したパワーバスケがまだ幅を利かせていたんです。センターがインサイドでゴリゴリとスペースを獲得して、ゴール下で点を重ねていく。背の低い日本は、それをやられたらおしまいです。
だったら、戦い方を変えようと考えました。分析を進めていくと、日本の女子はウォリアーズが展開したようなスタイルが合っているし、実際に転換可能でした。彼女たちのシュート成功率はもともと高かったからです。つまり、日本はいち早くパワーバスケから脱却し、女子のスタンダードを世界に示せると信じたし、だからこそ金メダルを獲れると思ったのです。