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外国人“鬼コーチ”が日本に課した「長時間練習」は「部活の根性練習」と何が違う? 「日本の高校生はケガを指導者に言い出しづらい」
posted2022/01/06 11:10
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Naoya Sanuki/Kaoru Watanabe(JMPA)
エディーさんとトムさんが議論したことのひとつに、日本の部活文化の特徴ともいえる「長時間練習」がある。
実はこのふたり、代表チームの合宿では長時間練習を課していたことで有名だ。
しかし、エディーさんとトムさんの話を聞くと、「目的としての長時間練習」と、「結果としての長時間練習」の違いが浮き彫りになった。
トム 私が1990年代に日本の実業団でプレーしていた時に感じたのは、仕事では徹底的に細部、ディテールにこだわるのに、バスケットボールとなると、ディテールが消え去ってしまっていたことです。当時の日本男子のバスケは大雑把で、単に5対5のドリルをやっているようなものでした。1990年代、アメリカの方がより細かいスキルを重視して試合をやっていましたよ。
エディー なぜ、ディテールにこだわらないコーチングになってしまうのか? 日本人は、細かいことにこだわる国民性なのに、ことスポーツの指導になるとそれが消えてしまうのは、日本のスポーツの大きな課題ですね。その原因は、どの競技の選手たちも中学、高校時代から長時間練習に慣れていることにあると思っています。
トム 長時間練習が当たり前になってしまうと、一つひとつの練習に対する集中力を欠きがちですよね。
エディー その通りです。彼らはひとつのセッションが3時間から4時間もかかる「根性練習」の中で育ってきています。指導者は朝から夕方、ひどい時には夜まで生徒たちを時間的に拘束し、長時間練習をすること、それ自体が目的化してしまっているのです。実際、練習の中身を分析していくと、より短時間でできるメニューのはずですよ。
「長時間練習」の問題点
指導者は時間を支配することで、力関係を明確にする。そして部員たちが一緒にいることを重視するが、その一方で失われるものは大きいとエディーさんは言う。
エディー 長時間練習の問題は、生徒たちはそれに順応しようとすることです。これは人間として当然の反応であり、人間の賢いところでもあります。選手たちは体力を温存し、配分しようとします。3、4時間の練習を休憩も入れずにやろうとしたら、目の前のことに100%で取り組めますか? 無理です。
トム 適切な休養を練習計画に組み込むことは、選手の集中力を保たせるためには絶対必要ですよね。
エディー 私が読んだ記事の中で、とても興味深いものがありました。トム、あなたは選手たちが「ジムラット(体育館のネズミ)」になること、つまり、選手たちがとにかく体育館で練習したがることを受け入れたそうですね。
トム 日本女子バスケのカルチャーとして、とにかく体育館にいて練習することを美徳とする考えがあります。これは主に、全国大会を狙う高校、名門校で身についた習慣と思われます。朝練習、昼休み、放課後。そして週末は長時間練習と、試合。ティーンエイジャーの段階で、これだけバスケットボールに触れるんですよ。アメリカでは、ちょっと考えられない。結果として集中力が散漫になり、決して効率的とは言えない。
エディー 体育館にいること自体が目的になってしまう選手もいるでしょうからね。
トム そうなんです。実際、私はいったん選手たちの頭の中からバスケットボールを忘れさせるために、「体育館からひとまず出よう!」と指示したこともあります。でもしばらくすると、なんだかんだいって、みんな自然と体育館に戻ってしまう(笑)。
エディー みんな、体育館にいることで精神的に安定した状態になってしまっているのでしょうね。
トム 私はそこで戦うことを諦めました。それよりも、そのカルチャーを受け入れ、選手たちが体育館にいるのなら、何も考えないでシュート練習をするのではなく、課題を明確にするように伝えたんです。
エディー 練習の意義をクリアにしたわけですね。それは素晴らしい。