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《箱根駅伝・往路優勝》レース前の憶測「青学大の3区は交代するのでは…」なぜ原晋監督は“2人の1年生”をサプライズ起用できたのか?
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byNanae Suzuki
posted2022/01/02 19:45
青学大は2年ぶりの往路優勝。レース後にインタビューを受け、5区若林宏樹(1年)をねぎらう原晋監督
「走っていくなかで、余裕を持って丹所さんについていけたんですが、残り3キロで『これは行ける』と確信して前に出ました」
19歳のしたたかな仕掛け。
太田は区間賞こそ丹所に譲ったものの、12秒差をつけてトップでタスキをリレー。往路優勝の基盤を築いた。
「朝から太田と他の1年生がやりあってて…」
太田はタフな選手だ。朝の練習でも手加減を知らない。3年生の岸本大紀が証言する。
「朝から太田と他の1年生がやりあってて。ついて行こうかと思ったんですが、クレイジーなペースだったので、やめときました(笑)」
先輩が思わず苦笑してしまうほどの、朝練習の質の高さ。そしてトラックレースの出場本数も部内でトップクラスだ。
12月を前に、原晋監督はこう話していた。
「太田は強いですよ。入学以来、ポイント練習はすべて消化してます。当落線上にはいるけれど、あとは12月の練習の内容次第ですね」
本番を前に、グッと調子を上げてきたということだったのだろう。
太田本人はキャンパス内で行われた壮行会で「レースで外さない自信があります」と話したほどだったが、駅伝経験のない1年生を重要区間で起用し、結果を引き出した原監督の眼力は並々ならぬものがある。
青学大は1年生の段階から表現力が豊かな選手が多いが、初めて話を聞いたときから、太田はかなりとんがっていた。
「レギュラーじゃ面白くないと思うんですよ。イレギュラーの方が個性が際立つし、いろいろ面白いと思っているんで」
1年生らしからぬ冷静な走りは、エッジの利いた発想から生まれたのかもしれない。
じつは“駅伝を2本外していた”5区若林
そしてもうひとりの若林も練習の消化率、そして内容も部内トップクラスだった。
ところが、駅伝で結果が出なかった。出雲では4区で区間6位、そして全日本大学駅伝の6区では区間12位となり、順位を2つ下げてしまった。
全日本では、選手たちはバスで名古屋に戻り、記者のインタビューに応じるのだが、若林を待っていたのは私を含め2人だけだった。目を伏せながらも、若林はしっかりと「敗因」を自己分析していた。
「先輩がコンディション不良で急に走ることになったこともあり、気持ちの準備がしっかり出来ていなかったのが反省点です……。補員から選んでいただいたのに、結果を残せずに申し訳ないです」
ところが、11月中旬に合宿所を訪ねた時、若林の目つきが変わっていた。