強い相手でなくても結果は大敗することが多かった。対戦相手から馬鹿にされることもあった。「勝ちたい」という欲が生まれても不思議ではないが、玄の信念はぶれなかった。

「公園を使わせてもらっていたので、1時間くらい落ち葉拾いやゴミ拾いをしてから練習する。掃除をしている時に『今頃、みんな楽しそうに試合をしているんだろうな』と思うことも正直ありました。でも、不思議と悲しい気持ちにはならなかったんです。僕はここで成長したいと覚悟を決めて入ったので『中学3年間終わった後に、一番成長をしているのは俺だぞ』と思っていた。ずっとポジティブでしたね」

　玄を支えたのは、「うまくなっている」という実感。チーム内でのレベルの差があったが、自然と“想像力”が身についた。

「自分より技術に劣る選手に対しても、『強い相手と対峙している』というイメージでやったので、簡単に抜けたとしても、『いや、これだけモーションが大きかったら読まれて奪われる』、『今のフェイントでは抜けない』と思っていました」

　玄が頭の中でずっと描いていたのは、静岡学園のサッカーだった。

「中1の時に選手権予選の準決勝を静岡まで観に行ったんです。静学は見ていてもドリブルかパスかわからないようなプレーをしたり、（わかっていても）止められないドリブルをどんどん出していく。そんな選手たちを見てワクワクしたんです。その時のイメージをずっと大事にしてきました」

県予選決勝でのMF玄理吾　©︎Takahito Ando

憧れの「静学」練習に参加

　中2の頃、玄は坂本に「静学の練習に参加させてください」と懇願したことがあった。夏にそれが実現すると、大きな収穫を得た。

「もうめちゃくちゃ楽しかったんです。まず人工芝ピッチをフルに使えるし、顔を上げたら味方がいる。パスを出したら返ってくる。すぐになじめました。周りから『君、上手いね』と言われたことがめちゃくちゃ嬉しかったし、この経験を無駄にしてはダメだと思った」

　翌年には静岡学園の関西遠征の合宿への参加も実現し、スタッフからは高評価を得た。特待生の枠がすでに埋まっていたことでそこに食い込むことはできなかったが、それでも静岡学園でサッカーがしたい気持ちが揺るがない玄は、学校推薦の枠で進学を模索。こうして“公式戦2試合の男”は静岡学園の門を叩くことになった。

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