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中学時代は公園で練習、SASUKEみたいな特訓とは? 5ゴール快勝・静岡学園MF玄理吾(J2徳島内定)の異例すぎる経歴
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byAFLO SPORT
posted2021/12/30 11:04
静岡学園の攻撃陣を支えるMF玄理吾(3年)。徳島ヴォルティス入りが内定するテクニシャンだ
1年時は厳しい現実を突きつけられた。ボールコントロールやショートパスのセンスはあっても、「11人のサッカー」の耐性はまだない。技術を活用できず、ルーキーリーグでもベンチを温め続けた。許された出場時間はすでに順位が決定していた最終節のたった1試合。しかも前半のみで交代させられた。
「底辺からのスタートだということは分かっていた。チームメイトから『どこのチーム出身?』と聞かれて『FC Libreだよ』と答えると、みんな『どこそれ?』がお決まりのパターンでしたから(笑)。でも技術では誰にも負けていない自負があったので、普段の紅白戦からイメージを膨らませながら取り組めた。毎日の練習が本当に楽しかった」
公園で磨き上げてきた独特の感性とゲーム感覚が噛み合うようになると、玄の存在感はチームの中でも徐々に大きくなっていく。高2時にトップチーム昇格を果たすと、“ボールを奪われないボランチ”として多くの試合に絡むようになった。
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そして最終学年を迎えた今季は確固たるレギュラーの座を獲得。古川やMF川谷凪(J1清水エスパルス内定)、DF伊東進之輔(J3ギラヴァンツ北九州内定)、さらにDF行徳瑛やMF高橋隆大といった注目2年生が揃う中にいて、玄はチームをコントロールする役割を担うまでに成長した。
玄の成長する姿にスカウトも目を光らせた。徳島の他、J2の1クラブから練習参加の打診を受け、正式オファーをもらっていたという。
「徳島のプレースタイルは、試合を見ても、練習参加しても、後ろからどんどんつないでいくタイプで僕がやりたいサッカーでした。(ダニエル・)ポヤトス監督はミーティングでも凄く細かい部分までこだわっていて、練習でも抜け目なくて、雑なプレーを嫌う。ここなら成長できると確信できました」
中学時代の経験が武器になった
将来の道が決まった。夏のインターハイではベスト4に進出し、そして100回という節目を迎える選手権への出場権も手にすることができた。玄はここまでの道のりを改めて振り返る。
「上手くなりたいという向上心と、誰にも負けたくない気持ちでサッカーを楽しむ。それが大事だと思います。中学時代にサッカーを思い切り楽しめたからこそ、環境が整った高校で自分のやりたいことを爆発させることができた。気づいたらLibreで積み上げてきた技術が武器になっていました。多くの引き出しを持った状態で本格的なサッカーをすることができたから本当に毎日が楽しかった。プロに入ってからもその気持ちを忘れずに、もっと向上心を持って自分の武器を磨きながらやっていきたいです」
玄の活躍は、同じ境遇の子どもたちの目標にもなる。
「今、Libreのジュニアユースに進む選手も増えて、公式戦に参加できていると聞きました。僕が選手権やプロで活躍すれば、『あの玄理吾がいたFC Libreだ』と多くの子どもたちが入ってくれるかもしれない。そうなれたら嬉しいですよね」
そう語りながらキラキラと輝かせた目は、きっと公園でボールを追いかけていた頃と同じなのだろう。広いピッチの上でサッカーを思いっきり楽しむ玄の姿をこれからも追い続けたい。