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大人気番組『SASUKE』の演出家が明かす“知られざるウラ側”と名物エリア誕生秘話「クリフハンガーは山田勝己さんの懸垂を見て…」
text by
平田裕介Yusuke Hirata
photograph byWataru Sato
posted2021/12/28 11:06
『SASUKE』第一回から演出として番組に携わる乾雅人さん
「そり立つ壁」「クリフハンガー」はどのように生まれたか?
ーーエリアといえば、「そり立つ壁」や「クリフハンガー」は『SASUKE』の象徴にして鬼門です。これらはどのようにして生まれたのですか?
乾 当時、僕はレギュラーで『筋肉番付』もやっていて、そこで一緒にやっていた放送作家たちに考えてもらったんです。『SASUKE』の障害物は「エリア」と呼ぶのですが、「新しいエリアを考えてよ」と募集したら、放送作家の太田くんが「そり立つ壁」のラフスケッチを持ってきたんです。形からして面白いなとは思ったけど、攻略可能な高さやアールの深さがどれくらいなのか見当がつかない。
「そり立つ壁」は、作るのに数百万円掛かってるんですよ。だから、テストして誰も攻略できなきゃ数百万をドブに捨てるのと等しいので、東大理工学部出身だったADが計算して、高さや深さを割り出したんです。「アールの深さ、円周、高さがこれくらいなら、攻略できます」と図面も描いてくれたので、それをもとに作って緑山スタジオのオープン・セットでテストしたんですよ。
そんな流れで日体大の学生さんたちにテストしてもらったけど、誰も攻略できない(笑)。「できねぇじゃねえかよ!」と怒ったら、「そんなわけないですよ。こうやってやるんです」と彼本人がスルッとやってのけた。「理論上可能です」とケロッと言われて、実際にそれをサクッと見せられちゃったので、「じゃ、OK!」と。これが2000年ですかね。
ーー「クリフハンガー」も放送作家さんのアイデアですか。
乾 僕が考えました。『SASUKE』の代名詞的な出場者で、「ミスターSASUKE」と呼ばれる山田勝己さんを99年くらいから番組でフィーチャーするようになったんですね。それで、彼が住んでいる兵庫県に行って練習風景を撮りにいったら、トレーニングジムのドアの外枠に掴まって懸垂してたんですよ。こんな細くて薄い突起で懸垂できるものなのかと驚きつつ、これを懸垂じゃなくて横移動させたら面白いんじゃないかって。そこからです。
「未来永劫できる奴なんていねぇよ」ってキレられた(笑)
ーー横移動のみならず、途中で背後の突起に飛び移らないといけないですよね。あの難関はどうやって思いつかれましたか?
乾 1999年に導入してからしばらくは、延々と横移動で進んでもらったところで上下に揺らしていたんですね。2004年に僕が一度『SASUKE』を離れて、2012年に戻った際に「クリフハンガー」のテレビ的な弱点に気がついて。出場者が挑戦している時に、どうしても背面から撮影しないといけないんですよ。突起の裏から撮っても、出場者の顔は見えないし、突起すら見えなくなる。
だったら、「振り返ったらいいじゃない!」って閃いた。そして2012年にターンして飛び移る新バージョンを作ったけど、テストでも誰もできなくて、その収録回でも全滅。テストの段階から、当時のプロデューサーに「こんなこと、未来永劫できる奴なんていねぇよ」ってキレられてはいたんですよ(笑)。
でも、僕としてはアトラクションに対する考えが変わっていたというか、しっかりした信念みたいなものがあったんです。それは、誰もできなかったものが、ついに誰かによってできた時の驚き、喜び。僕がアトラクションでなにをしたいかといったら、それなんですよ。