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「騎手の仕事に性差はあるか」「育児との両立は困難?」JRA初の女性騎手・細江純子が明かす“競馬界と女性”の問題への本音

posted2021/12/24 11:03

 
「騎手の仕事に性差はあるか」「育児との両立は困難?」JRA初の女性騎手・細江純子が明かす“競馬界と女性”の問題への本音<Number Web> photograph by Keiji Ishikawa

現在はホースコラボレーターとして活動を続ける細江純子に“競馬と女性”の問題を聞いた

text by

音部美穂

音部美穂Miho Otobe

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Keiji Ishikawa

 1996年、JRAに初めて女性騎手が誕生してから四半世紀。藤田菜七子をはじめとする女性騎手の活躍や、「UMAJO」と呼ばれる女性ファンの増加もあり、競馬界にも新風が吹き始めている。JRA初の女性騎手であり、現在は競馬評論家を務める細江純子に、女性騎手をめぐる競馬界の変化や、今後の課題について聞いた。(全3回の2回目/#1#3へ)

伝える側になって初めて見えた競馬の世界

 わずか5年の騎手生活を終え、競馬評論家に転身した細江。伝える側に回って初めて、騎手としての自分を冷静に振り返ることができるようになったという。

「厩務員さんへの取材では、1日に何度も厩舎に足を運んで馬の様子を確認したり、『そんなことまで!?』とこちらが驚くような細かいところにまで神経を使ってお世話をしている様子を目の当たりにしたんです。その過程で、やはり私は馬のことを全然わかっていなかったんだと痛感しました。私が厩務員なら、私のような騎手には乗ってほしくないと感じたほどです。

 それは騎手の人たちに対しても同じで、取材してみると皆さん見えないところで様々な努力をしていて、だからこそトップジョッキーであり続けられる。私が勝てなかったのは当然だったんだと気づかされました」

 また、競馬界全体への見方も少しずつ変わってきた。

「現役時代は、どうして自分がこんなに苦しみを味わうんだろうという思いにとらわれすぎて、まわりが見えなくなっていた。でも、周囲も私にどう接していいのか分からず戸惑っていたのかもしれない、と考えられるようになったんです。

 当時は騎手だけでなく、調教師や厩務員など競馬界全体を見ても女性がほとんどいなかった。正確にいえば、女性もわずかながらいたのですが、調教師の娘さんなど、縁故関係がある人ばかり。縁もゆかりもない女性が騎手という前例がない立場で入ってきたのだから、接し方が分からなかったのでしょう。それで互いに様子を探ったり遠慮し合ううちに距離が生まれてしまったのかもしれません」

競馬に「性差によるハンディ」はあるか?

 これまでJRAでは、細江を含め9人の女性騎手がデビューを果たしている。

 ’16年に藤田菜七子がデビューした際は、久々の新人女性騎手誕生とあって、大きな話題を呼んだ。‘21年には永島まなみ、古川奈穂が後に続き、この年の4月には、新潟競馬場でのレースにて古川、藤田、永島が1~3着を独占し、JRA史上初の“女性騎手ワンツースリー決着”が実現した。

 地方に目を向ければ、通算1000勝をあげた宮下瞳(名古屋競馬所属)をはじめ10人ほどの女性騎手が在籍しており、海外でも多くの女性騎手が活躍している。競馬には、性差によるハンディはないのだろうか。

「筋肉量など根本的な男女の体格差による影響は、やはりあると思います。たとえば、馬を御す時の腕の力や騎乗姿勢を保つ脚力は男性のほうが強いでしょう。でも、競馬の場合、走るのは人間ではなく馬であり、馬の一馬力には人間は到底かなわない。だからこそ、その力をコントロールする技術が騎手には求められます。

 体格の差はあっても、ハミ(馬の口に噛ませる棒状の金具)を通して馬と呼吸を合わせる力量、馬のスピードを活かすための重心の取り方などには、性別による差はないと思うんです。たとえば、菜七子さんは馬に寄り添い人馬一体となれる柔らかさを持っていて、それは彼女の武器になっています」

【次ページ】 “永久的に2kg減”は「女性騎手に非常に有利な制度」

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