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《天皇杯でジャイアントキリング》サッカー素人の“戦術ブロガー”がプロの分析官になれた理由「プレーが下手でも役割はある」
text by
澤田将太Shota Sawada
photograph bySports X
posted2021/12/21 17:02
ブログをきっかけに藤枝MYFCの分析官に抜擢された龍岡歩(現おこしやす京都AC)。9年間にわたる海外放浪の経験が分析官としての素地を作ったという
チアゴ・シウバやダビド・ルイスのような屈強なブラジル人に囲まれたという龍岡。ほとんどの日本人の場合、1万5000円を支払い身の安全を買うだろう。しかし、旅先での貧乏生活で度胸がついていた龍岡は、信じられない行動に出る。
身振り手振りとカタコトの英語で嘘をついた
「1万5000円くらいなら払ってしまった方がいいのはわかってるんです。でも、ずっと旅をしていたので物価の感覚が南米仕様になってしまって、15万円くらいに感じちゃったんですよ(笑)。センターバックに囲まれながらも払いたくないとゴネたら、『事務所へ来い』みたいなことを言い出すんですよ。これで行ったらおしまいですよね。咄嗟に『俺は日本のお金持ちだ。ホテルに行けば金はある』と身振り手振りとカタコトの英語で嘘をついたんです。
そしたらタクシーでホテルに向かうことになりました。後部座席の真ん中が僕で、両脇にセンターバック。ワンパンでKOされそうなくらい胸板が厚いんですけど、よく見たら胸ポケットが不自然な形に盛り上がっている。財布でも携帯でもなさそうな盛り上がり方です。さすがに命の危険を感じました。結局は、泊まっていたドミトリータイプのホテルに肝っ玉母ちゃんみたいな人がいて、泣きついたら怒鳴ってセンターバックを追い返してくれました。あの人がいなかったら大変なことになっていたと思います」
危険な思いをしてまで旅を続けたのは、“生”の空気が知りたかったからだ。繁華街や路地裏だけでなく、サッカースタジアムにも当然のように独特の空気が漂う南米。そこで龍岡は、サッカーの戦術の奥深さを知ることとなった。
「ヨーロッパの場合、サッカーはあくまでエンターテイメントの範疇なんですけど、南米は戦争なんです。以前から聞きかじりで知っているつもりでしたが、生で見て初めて理解することができました。アウェイチームが試合前にアップを始めると、ホームのサポーターがあらゆるものを投げ飛ばして、しまいには火のついたスクーターを投げ込むとか(笑)。
こんな状態ではアウェイの選手は本調子を出せませんし、レフェリーも公平に笛を吹くことができない。ヨーロッパ以上に、南米ではホームの利が明確にあるんです。それでも勝ち点をもぎ取らなければならないわけで、当然そこでの“戦術”は他の場所で生まれるものとは中身も意味合いも変わってくる。世界中を旅して現地の文化を学ぶことで、戦術の裏にあるものを知ることができたんですよ」