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「彼らに何もできていない。申し訳ない」 難民GKがぬぐえずにいた、日本とミャンマーの仲間に対する“沈痛な思い” 

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木村元彦

木村元彦Yukihiko Kimura

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photograph byNaoki Morita/AFLO

posted2021/12/19 17:01

「彼らに何もできていない。申し訳ない」 難民GKがぬぐえずにいた、日本とミャンマーの仲間に対する“沈痛な思い”<Number Web> photograph by Naoki Morita/AFLO

ピエリアンアウンは今、必死に日本の舞台で戦っている

 攻撃は無差別に行われ、空爆と戦車砲の後は、国軍兵士たちが重火器を持って民家を燃やし尽くした。160棟以上の家屋が焼失、8000人以上が町を追われた。名高い山の街を意味するこのタンタランに暮らす山岳少数民族のチンは、古くから尚武の風で知られており、イギリスの植民地時代にはキリスト教に帰依し、その勇猛果敢な闘い方から、ネパールのグルカ兵の様に大英帝国軍に傭兵として組み込まれていた。

 山の中での闘いになれば、チンは無類の強さを発揮する。放っておけば脅威になると感じていた国軍は、クーデターから約9カ月のタイミングで壊滅作戦に及んだと言われている。その攻撃は、非武装地帯、非戦闘員まで襲い、少なくとも2つのプロテスタント教会が燃やされ、子どもの権利保護の活動を長きに渡って行ってきたNGO=セーブ・ザ・チルドレンのオフィスまでもが破壊された。

 国家の軍隊が民間人を大量に死に至らしめたこの行為は国際軍事裁判所憲章で規定された「人道に対する罪」そのものである。ラカイン州の少数民族であるロヒンギャに対してジェノサイドを行ったという事で国際司法裁判所(ICJ)の審理を受けていたミャンマー国軍政府は、さらに後戻りが出来ないところまで罪を重ねている。それはつまり、逡巡無くこの軍事独裁が押し進められ、地獄が長引くことを意味する。

「彼らに何もできていないことが申し訳ない」

 在日ミャンマー人たちの間で大きな衝撃が走ったのは言うまでもない。新宿区の中野にはキリスト教会に集って来るチン族のコミュニティがあり、サッカーチームも存在する。2年前にこのチームは在日ロヒンギャのチームと親善試合も行っている。

 タンタランへの攻撃後、ピエリアンは、沈痛な面持ちで声を絞り出した。

「私のかつてのチームメイトにもチン民族はいた。とても仲が良かった。彼らは日本でフットサルをしている私をミャンマーから応援してくれているかもしれない。しかし、私は彼らに何もできていない。そのことが申し訳ない」<#3に続く>

#3に続く
甘くない現実を突きつけられたミャンマー難民GKがついに… 「1分強で2失点」の初陣で覚醒した“サッカー選手の本能”

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