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2頭が安楽死、福永祐一は鎖骨骨折…香港スプリントの“落馬事故”はなぜ起きたのか? “わずか1秒半”の悲劇で、避けるのは不可能
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byPhotostud
posted2021/12/13 17:10
スプリンターズS制覇時のピクシーナイトと福永祐一
騎手が競馬学校で「柔道の受け身」を習う理由
いかに馬を傷めずに鍛えるか。これはホースマンにとっての永遠のテーマで、みな、それを胸に馬を育てている。脚元のケアの技術も進化し、屈腱炎をはじめとする疾病は昔より少なくなっている。が、それでも故障や、それに伴う事故はどうしても起きてしまう。だから、騎手たちは競馬学校で、わざと馬から落ちるような練習をこなしているし、柔道の受け身を叩き込まれる。落馬による負傷が重くなる要因の多くは、後続馬に踏まれたり、蹴られたりすることなので、落馬したらなるべく転がらず、その場にとどまって、後続馬が避けられるようにしたほうがいいとされているようだ。とはいっても、転がったほうが衝撃をやわらげられるはずなので、難しいところだろう。
主催者も、落馬してから埒に当たって怪我を悪化させることがあるため、人や馬がぶつかると壊れて衝撃を緩衝しやすいものを導入するなど、でき得る努力をつづけている。
生命を奪うほどの落馬事故を、どう受け止めるべきか
ときには、人馬の生命を奪ってしまう落馬事故に対して、私たち見守る側の人間が、どのような気持ちで構えていればいいのか、とても難しい。馬が走らなければ怪我もしないのだが、馬が走って、極限の力のぶつかり合いを見せてくれるからこそ、私たちは心を動かされ、人間と同じように名前と個性を持つ競走馬に敬意と愛情を抱く。驚くほどの能力を発揮し、金を払ってでも見たいと思わせるからこそ、馬たちは関係者を経済的に潤し、それに感謝する意味で、ホースマンは献身的な世話をする。それに応えて、馬がまた一生懸命走ってくれる。
それが競馬だと私は思っている。ここで結論を出すのは難しいが、前述したような具体的な備えを知ることが、心の備えの一助になるかもしれない。
繰り返しになるが、香港の2頭の冥福を祈ると同時に、怪我をした人馬の早期の回復を願いたい。
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