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《ナゾの追突事故》「事実は存在しない、あるのは解釈だけ」…遺恨を残し、フェルスタッペンとハミルトンの王座争いは同点最終戦決着へ 

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尾張正博

尾張正博Masahiro Owari

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photograph byGetty Images

posted2021/12/07 11:03

《ナゾの追突事故》「事実は存在しない、あるのは解釈だけ」…遺恨を残し、フェルスタッペンとハミルトンの王座争いは同点最終戦決着へ<Number Web> photograph by Getty Images

赤旗2回の荒れたレースで明暗分かれたハミルトン(右)とフェルスタッペン(左)。チャンピオン決定は最終戦に持ち越された

 レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表はこう語る。

「マックスはレースコントロールに指示された通りにポジションを譲ろうとしただけだ。もちろん、われわれはレースコントロールにもそうすることを伝えていた」

 しかし、レース中のメルセデスとレースコントロールのやりとりを聞いていると、メルセデスはそのことを知らされていなかったようだった。

 もうひとつ、ハミルトンがフェルスタッペンに追突した理由として考えられる解釈がある。それは、追突した場所が大きく関係している。というのは、今回のサウジアラビアGPの舞台となったジェッダ・コーニッシュ・サーキットにはDRSゾーンが3カ所連続してあり、2人が追突した場所がそのうちの3つ目のDRSゾーンの手前だった。つまり、その直前で相手を前に出せば、3つ目のDRSゾーンで今度は自分がDRSを使用して再逆転が可能になる。

 そのこと自体は反則ではなく、レッドブルもフェルスタッペンに対して「ポジションを譲れ」と指示するときには、同時に「戦略的に」という言葉を付け加えることを忘れてはいなかった。そのことは、ハミルトン自身も把握していたのではないかと考えられる。なぜなら、事故の映像を見る限り、フェルスタッペンがアクセル全開から突然ブレーキを踏んだというより、少し手前から減速してシフトダウンしていたからだ。しかし、なかなかハミルトンが抜かないのでフェルスタッペンはさらにブレーキを踏み、ハミルトンは慌てて進路を変えたものの避けきれずに追突しているように見える。

 もちろん、これは筆者の解釈にすぎない。というのも、レース審議委員会はこの接触に関してフェルスタッペンに10秒ペナルティを科したからだ。ただし、その裁定もまた、レース審議委員会のメンバーの解釈を元にしていることを忘れてはならない。

全員が納得できる正解はない

 1つしかないポジションを巡ってドライバー同士が競争するモータースポーツでは接触事故はつきものだ。そして、事故が起きれば当事者同士で意見が対立し、それを裁くためにレース審議委員会が必要となるが、担当するのが人間である以上、そこには人為的な解釈がどうしても入り込む。したがって、この問題にはいつまで経っても全員が納得する答えはでない。

 アクシデントとその後に出された5秒のタイムペナルティによって、フェルスタッペンはハミルトンに逆転を許し、2位でレースを終えた。これでドライバーズ選手権はフェルスタッペンとハミルトンが369.5点で並んだ。

 しかし、このサウジアラビアGPでの2位という結果をレッドブルにとって敗戦だったと考えている方がいたら、それも事実ではない。なぜなら、この日の結果を2位に踏みとどまったと解釈する者もいるからだ。それはフェルスタッペンだ。

「今日は多くのアクションがあり、さまざまなことが起きた。ペナルティには納得がいかないこともあるけれど、仕方ないことなので、前へ進むしかない。同点で臨む最終戦は、エキサイティングなシーズンの締めくくりになるはずに違いない」

 そのフェルスタッペンの解釈には、100%同意したい。

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