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《ナゾの追突事故》「事実は存在しない、あるのは解釈だけ」…遺恨を残し、フェルスタッペンとハミルトンの王座争いは同点最終戦決着へ

posted2021/12/07 11:03

 
《ナゾの追突事故》「事実は存在しない、あるのは解釈だけ」…遺恨を残し、フェルスタッペンとハミルトンの王座争いは同点最終戦決着へ<Number Web> photograph by Getty Images

赤旗2回の荒れたレースで明暗分かれたハミルトン(右)とフェルスタッペン(左)。チャンピオン決定は最終戦に持ち越された

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尾張正博

尾張正博Masahiro Owari

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 ドイツの哲学者であるフリードリッヒ・ニーチェの名言に「事実は存在しない、あるのは解釈だけである」という言葉がある。人間が営む世界においては、何事にも本当の意味での客観的事象は存在せず、そこにあるのは人による解釈だけという意味だ。

 今年、初開催となったサウジアラビアGPの決勝レースは、その言葉を思い起こさせるような、物議を醸すレースとなった。

 問題となったのは、37周目のバックストレートで起きた追突事故だ。アクセル全開の高速区間で減速したマックス・フェルスタッペン(レッドブル)にルイス・ハミルトン(メルセデス)が避けきれずに接触。フロントウイングにダメージを負ったハミルトンは、すぐさま「彼(フェルスタッペン)がブレーキテスト(前方を走るドライバーがストレート区間で故意にブレーキを踏んで、進路を妨害する行為)を行なった」と無線で怒りをぶつけた。

 その怒りはレース後も収まらず、こう続けた。

「なぜ突然、彼が大きくブレーキを踏んで、僕が彼に突っ込むような仕業を仕組んだのか理解できない」

 しかし、この時点でフェルスタッペンがブレーキテストをしたというのは、ハミルトンによる解釈であり、事実ではない。というのは、追突されたフェルスタッペン側にも全開区間でスローダウンしなければならなかった理由があり、むしろハミルトンに突っ込まれたと解釈しているからだ。

「僕はポジションを戻すようにチームから無線で指示されたので、バックストレートでレーシングラインを外してスローダウンしたところ、ルイスが真後ろから突っ込んできた。彼がなぜ、簡単に僕を抜いていかなかったのか理解できない」(フェルスタッペン)

追突の当事者、それぞれの事情

 じつはその直前の1コーナーでフェルスタッペンとハミルトンはサイド・バイ・サイドのバトルを繰り広げていた。トップを走るフェルスタッペンに対して、ハミルトンが並びかけながら、1コーナーへ進入していった。なんとかイン側を守ったフェルスタッペンだったが、止まりきれずにコースアウト。次のコーナーをショートカットする形で再びハミルトンの前に復帰した。

 コースを飛び出したことでアドバンテージを得る行為は厳しく取り締まられる。そこでチームはすぐにフェルスタッペンに「ポジションを戻すように」と無線を送った。

 にもかかわらず、2人は追突した。そこで考えられるのは、フェルスタッペンがポジションを戻そうとしていることが、ハミルトンには知らされていなかったのではないかということだ。

【次ページ】 全員が納得できる正解はない

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