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<劇的戴冠>「ありがとう」に込められたリスペクト…フェルスタッペンとホンダが築いた栄光に至る信頼関係
posted2021/12/14 17:03
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Getty Images
決戦の場となったアブダビGPに、マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)は特別なヘルメットを持ち込んだ。そして木曜日に最後のチーム集合写真を撮る直前、フェルスタッペンはそのヘルメットをホンダの山本雅史MD(マネージングディレクター)に見せに行った。
「マックスがわざわざ私のところに近寄ってきて『ありがとう』と言って、ヘルメットの後頭部側を見せてくれたんです」
驚きながら、山本MDがヘルメットを凝視すると、そこには「ありがとう HONDA」というメッセージが日本語とアルファベットで書かれていた。山本MDは言った。
「こちらこそ、この3年間、本当にありがとう」
2021年の最終戦はフェルスタッペンにとってタイトルを懸けた一戦であると同時に、ホンダにとってはF1ラストレースとなる。フェルスタッペンはそのことを忘れてはいなかった。それは彼にとって最初から、ホンダが特別な存在だったからにほかならない。
「初めてサクラ(HRD Sakura/ホンダF1の日本における開発拠点)に行ったときのことはいまでも覚えている。サクラには勝つために必要なものがすべてそろっていたからね。何人かのエンジニアと話をしたけど、こちらの質問にすべて的確に答えてくれて完璧だった。とても感銘を受けたし、驚いた」
レッドブルが初めてホンダのパワーユニットを搭載して戦った19年、フェルスタッペンは1年目のホンダに大きな期待をせず、開幕戦に臨んだ。ところが、ホンダはすぐに3位表彰台という結果を出した。ここからフェルスタッペンとホンダの勝利への旅が始まった。
リスペクトにはじまった勝利への道
最初は日本人のエンジニアとの仕事に戸惑いを感じるのではないかと不安もあったフェルスタッペンだが、すぐに馴染むことができた。
「彼らはあまりしゃべらず、おとなしいけれど、集中力がすごいんだ。僕とのコミュニケーションでも必要なときしか話しかけてこない。それは僕にとっても好ましかった。僕も基本的にエンジニアと長話するのは苦手だからね。ホンダには言うべきことがあるときだけ話しかける。だから、ホンダとの仕事はストレスがなく、とてもスムーズだった」