スポーツまるごとHOWマッチBACK NUMBER
五輪金メダリスト大橋悠依のゴーグルは“わずか2600円”…一流スイマー愛用のゴーグルはなぜ安いのか?
posted2021/12/05 17:00
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by
Asami Enomoto/JMPA
一流アスリートのギアは値が張る――。
そんな印象はないだろうか。しかし、お手頃なギアを愛用するアスリートも少なくない。競泳用ゴーグルもそのひとつ。東京五輪の2冠女王、大橋悠依が着用するのは山本光学の「SWANS SR-10」税別2600円。これは安い!
競泳用ゴーグルは一部高級品を除くと、多くが2000円台から4000円台。大橋に限らず一流スイマーのほとんどが、この価格帯のゴーグルを着用しているという。
スポーツ事業部の鳥谷好孝さんが解説する。
「ゴーグルが安いのはパーツが少なく、シンプルなつくりになっているからです」
ゴーグルは基本4つのパーツで構成される。耐衝撃性と透明性に優れるレンズと、レンズと皮膚の間のクッション、ふたつのレンズをつなぐ鼻ベルト、そして頭部に巻くベルト。だが一流スイマーの多くがつけるゴーグルは、SR-10を含めてクッションすらない。
「クッションをなくすことでレンズの厚みがなくなり、抵抗が減るからです。競泳は水の抵抗との戦い。レンズが厚いと飛び込みやターンのとき、ゴーグルがズレることもある。ですから抵抗を極限まで減らすために、不要なものを削ぎ落とします。一般ユーザーのゴーグルよりパーツが少なくなるので、よりお手頃価格になるわけです」(鳥谷さん)
大橋は東洋大時代にチームメイトから勧められて以来、SR-10一筋という。
配色によって、水中での視界の色は大きく異なる
ウェアとキャップとゴーグルの3点で戦う競泳選手にとって、ゴーグルは数少ない“オシャレアイテム”。大橋はゴーグルの鮮やかなカラーでも、ファンの視線を引きつけた。
大橋のサポートを担当する、スポーツ事業部営業部の鈴木沙織さんが言う。
「彼女の定番は、ネイビーブルーのレンズにエメラルドグリーンのミラーコーティングをしたもの。色の組み合わせは相当数ありますが、彼女はずっとこれです」
実はレンズとミラーの配色で、水中の景色はかなり変わり、大橋カラーでは水中がブラウンがかった深い青に見えるという。
「グリーン系のミラーコーティングをすると、バランスが良く、安心感のある色になる。その色合いも、大橋さんの好みだったのかもしれません」(鳥谷さん)
色とりどりのゴーグルは、ゼロコンマ1秒を削り出すための究極にシンプルなギア。大橋は彼女にしか見えない世界で戦い、金メダルに到達したのだ。
※大橋悠依カラーは販売終了