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「今の自分には価値がない」瀬戸大也が初めて語った、スキャンダルへの悔いと妻の言葉
posted2021/05/26 11:03
text by
田坂友暁Tomoaki Tasaka
photograph by
Kosuke Mae
一昨年夏に東京五輪代表内定を早々と獲得。まさに“無双状態”だった男は、五輪の延期と昨年秋の騒動からの活動停止で、突如底辺を味わった。後悔と葛藤の中で得た誓い、そして自身の描く夢の変化を騒動後初めて語る――。
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「あの牙はね……抜かれなきゃいけなかったんですよ」
瀬戸大也は、以前の自分を振り返ると、穏やかな表情でそう話した。
2019年のFINA世界選手権(韓国・光州)で200mと400m、個人メドレー2種目の東京五輪代表内定を手にするも、その後、五輪が延期。そして昨年秋のスキャンダルによる騒動で、同年内の活動停止となった。所属もなくなり、コーチやトレーナーと結成していた「チーム・ダイヤ」を所属とした。イチからというより、マイナスからの再出発を余儀なくされた。
それでも今年、瀬戸は帰ってきた。しかし、どこか雰囲気が違った。彼が以前に持っていた絶妙な勝負勘は、まさに野性味溢れる獣の牙のようだった。瀬戸の強さの象徴だったその牙は、活動停止を経て、彼が言うように抜け落ちてしまったのか。騒動後、久しぶりのロングインタビューで、彼は心のうちのすべてをさらけ出してくれた。
「すごくワクワクできるような結果だった」
4月3日、東京五輪の代表権をかけた日本選手権初日の400m個人メドレー。本来の強さを取り戻せたのかが試された初戦で、瀬戸はその存在感を見せつけるように、誰よりも積極的に、前向きな泳ぎを見せ、4分9秒02で優勝を果たした。
「夏の五輪本番でどういうレースをしたいか、ということを考えて取り組んでいますから、今大会もテーパー(調整)はせずに臨みました。高いスピードを出したとき、自分がどこまで耐えられるのかの確認をしたかった。そういったなかで、このタイムで泳げたことは自分が目指す五輪での金メダルへの手応えを感じられる結果でした」
瀬戸は続く200mバタフライでも派遣標準記録を突破し、代表内定を勝ちとる。さらに、長年のライバルである萩野公介との対決となった200m個人メドレーでは、最後まで勝負の行方が分からない接戦を100分の2秒差で制し、萩野と笑顔でガッチリと握手を交わした。
終わってみれば、200m・400m個人メドレーの2冠に、200mバタフライの2位という上々の結果だった。
「400mの個人メドレーは、今まで出場してきた日本選手権のなかでいちばん速いタイムだった。これは正直、かなり自信になりました。五輪に向けて、今後の自分に向けても、すごくワクワクできるような結果だったと思います」