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《エリザベス女王杯でGI2勝目なるか》三冠馬を圧倒した快速馬レイパパレ、馬産地の情熱がつないだ「100年の血脈」を辿る
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byKeiji Ishikawa
posted2021/11/14 06:00
春の大阪杯では、三冠馬コントレイルや短距離女王グランアレグリアに圧勝。今週末のエリザベス女王杯でふたつ目のタイトル獲得を狙う
第九フロリースカツプの娘のスターリングモア(父シアンモア)を、1932年、浦河・鮫川牧場の創設者である鮫川由太郎が導入した。100円で家族がひと月生活できた時代に、小岩井農場から1万円で購入したという。
「これを、うちの牧場の血にしていくんだ」
鮫川牧場では代々そう伝えられた。同牧場は閉場してしまったが、血縁の鮫川啓一牧場に今いる牝馬のほとんどが、この血脈だという。クイーンSを連覇するなど重賞を4勝したオースミハルカもこの牝系で、最近では、その孫のアユツリオヤジが中央で5勝するなど活躍した。
ユニークな馬名でも人気のあったアユツリオヤジの5代母のトサモアー(スターリングモアの孫)は、レイパパレの6代母でもある。つまり、鮫川由太郎が牝系の存続に執念を燃やさなければ、レイパパレはこの世に誕生しなかったのである。
「出てこなくてよかった」三冠牝馬の陣営も戦慄
そのレイパパレは'17年1月28日にノーザンファームで生まれた。
「生まれたとき58.5kgと、体は大きいほうでした。ディープ産駒はすらっとした馬が多いなかで、この馬は母の父クロフネの影響か、少し筋肉質でした。競走馬として最もいいところは、負けず嫌いなところです。競られたり、後ろから来られたりしても絶対に抜かせようとしない」
そう話す秋田が、この馬でGIを意識したのは昨年7月、3連勝で糸魚川特別を制したころだったという。
「秋華賞を除外されて大原Sで4連勝し、今年の大阪杯を勝ったあとのことですが、牝馬三冠馬となったデアリングタクト陣営から『レイパパレが出てこなくてよかった』と言われましたよ(笑)。重馬場で強敵相手に大阪杯を4馬身差で勝ったときは凱旋門賞参戦を考えたのですが、次走の宝塚記念(3着)を見て、2400mの距離に不安を感じ断念しました」
祖母オイスターチケット、母シェルズレイ、娘レイパパレの3代に共通するよさはどんなところなのか。
「前向きで、スピードがあるところです。しっかりした体と、動きの軽さを伝えていく力もある。日高で生まれた牝馬の末裔がこうしてGIを勝つと、日高の生産者は勇気づけられると思います。頑張れば、結果を出すことができるんだ、と」
自身も新冠の秋田牧場で生まれ育った秋田の言葉だけに響くものがある。
「現在、キャロットの基幹牝馬は、エピファネイアやリオンディーズなどの種牡馬になる馬も送り出しているシーザリオですが、オイスターチケットも、そういう存在に近づいていけると思いますよ」