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「労働でみんな灰色だ」闘う男だけが称賛される炭鉱の街・ボーフム 小野伸二にも辛口だったファンに浅野拓磨は認められるか
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2021/11/09 17:01
移籍後まだゴールのない浅野だが、闘争心溢れそのプレーをボーフムの熱いファンたちも好意的に受け止めている
また、興味深いのはこのクラブから得点王が3人も出ていることだろう。
1985-86シーズンにシュテファン・クンツ(現トルコ代表監督)、2002-03シーズンにはトーマス・クリスティアンセン、そして、2006-07シーズンのテオファニス・ゲカスだ。経営規模の大きくないクラブはビッグクラブには太刀打ちできないから、自然と負けないサッカーを模索する。守備を徹底的に固め、カウンターとセットプレーに活路を見出す。ある意味、王道の戦い方だ。
「小野はボールを持たないときにさぼりすぎだ」
しかし、ボーフムにはどこか違うメンタリティがある。
一芸に秀でた選手を獲得して、新しいチャンスを与えようとする。例えば今のチームで攻撃の要と言えるゲリット・ホルトマンは、素晴らしいスピードと破壊力ある左足シュートを持つ魅力的な選手だ。その一方で戦術理解に乏しく、気性の荒さも災いし、これまでに所属していたクラブでは出場機会を得ることができないでいた。
そんな選手がチームのために汗をかき、自分の強みも発揮できるようにサポートして、チーム力を一段階上へと上げようとしている。
そう言えば、このクラブでは小野伸二がプレーしていた。
小野が所属した頃に何度か取材で訪れたことがある。ある日のこと、ボーフムファンに声をかけられたことがあった。
「小野の取材か? 今度会ったら伝えておいてくれ。ボールを持つとすごくいい選手だと思う。でも、ボールを持たないときにさぼりすぎだ」
当時の小野は怪我の影響もあったと思う。ただ、どれだけの長所を持っていたとしても、それが発揮されなければ武器にはならないし、チームのためにはならない。ファンからの強烈なメッセージ。その後、しばらくして清水エスパルスへ移籍していったために伝える機会はなかったが、あの言葉は今も僕の心に深く刻まれている。
浅野にボールが入ると何かが起きそうな雰囲気が
そんなボーフムで、浅野は存在感を示している。
観戦したドイツカップでは、61分にアントウィ・アジェイとの交代で出場。左サイドのオフェンシブな位置でプレーした。味方からのパスを引き出すと相手の当たりをどっしりと受け止め、潰されることなくボールをコントロールして味方へつないでいく。
69分には上手くボールを運び、鋭いターンからシュート。77分に左サイドからクロスを送ると、ファーポスト際でホルトマンがダイレクトボレーを放つ。このシュートは必死に戻った相手にブロックされたが、次々とチャンスを作り出した。