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「労働でみんな灰色だ」闘う男だけが称賛される炭鉱の街・ボーフム 小野伸二にも辛口だったファンに浅野拓磨は認められるか
posted2021/11/09 17:01
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph by
Getty Images
ドイツで炭鉱の街にあるサッカークラブというとシャルケが有名だが、今季から浅野拓磨が所属するボーフムも炭鉱の街のクラブだ。クラブソングはドイツで最も有名な歌手の1人、ヘルベルト・グレーネマイヤーが歌う、その名も「ボーフム」。グレーネマイヤー自身ボーフム育ちで、その歌詞には炭鉱町で戦ってきた自分たちの誇りが描かれている。
「ここに煌びやかさなんてない。労働でみんな灰色だ。化粧をしようなんてしない。それが本物の肌色だからだ」
「世界的な街ではない。お洒落なモードショーなんてない。金じゃない。ハートが大切なところだ。金を持ってる奴はとっくにデュッセルドルフで暮らしている」
「俺たちはここから生まれたんだ。ここに愛着があるんだ」
ユニホームが綺麗な選手はいらない
街中には歴史を伝える炭鉱博物館があり、年間40万人近くが訪問している。着飾らず、炭で顔を真っ黒にして、懸命に人生を戦い続けた人たちが作り上げた街だ。
だからファンは、ボーフムの選手たちに不屈のメンタリティとクラブへの100%の忠誠を求める。ユニホームが綺麗な選手はいらない。味方からのパスが乱れてボールを失っても、そこからスピードを上げて相手を追いかける姿に拍手を送るのだ。
僕が取材で訪れたのはドイツカップ2回戦のアウクスブルク戦。試合前のグラウンドに10歳の男の子がスタジアムDJと一緒にいるのが見えた。「今日の試合予想はどう?」と聞かれた男の子が「2-0!」と間髪入れずに答えると、ゴール裏ファンからは野太い声で「ヤー!(そうだー!)」のリアクションがあった。
そんなファンの熱気にも後押しされたボーフムは、序盤から押し気味に試合を進めて、見事に先制点を挙げた。
ゴールシーン以外で一際スタジアムが沸いたのは26分。DFコンスタンティノス・スタフィリディスが相手のドリブルをうまく止め、そのままノーファールで相手を押し倒してマイボールに。ここで割れんばかりの歓声が上がった。まさに、ファンが求めるハードなプレーだった。
ボーフムは3人の得点王を輩出
もちろん、ボーフムは闘争心だけのクラブではない。
2009-10シーズンに2部降格となった後、昨シーズンまでの11年間ずっと2部リーグで戦ってきたわけだが、1996-97シーズン、そして2003-04シーズンにはどちらもリーグ5位でフィニッシュし、ヨーロッパリーグの前身であるUEFAカップに出場している。