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「大輝が鉄棒の金メダルを掛けてくれたので今度は…」内村航平→橋本へ“継承の儀式”に込めた思いとは《新旧王者が世界体操決勝へ》
posted2021/10/23 11:00
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
KYODO
「ちょっと違うかもな、と思ったんですけれど……」
少しだけ苦笑いを浮かべ、内村航平はうれしそうに言った。
「『僕が代わりに獲りました』というより、『僕じゃないです』みたいな思いは伝わってきました。シンプルに、『航平さんが出ていたら、(金メダルは)航平さんでしたよ』というような。大輝の気持ちが伝わってきました」
内村に金メダルを掛けられて「願いが叶った」(橋本)
暑さの残る8月下旬。内村にインタビューをした。東京五輪の体操競技・男子個人総合と種目別鉄棒で橋本大輝が2冠に輝いてから、2週間あまりが過ぎた頃だった。
その数日前、内村と橋本は世界体操選手権関連の収録のためにテレビ局を訪問。五輪の団体総合予選以来、約3週間ぶりに顔を合わせた橋本と内村が、控え室で互いに金メダルを掛けあうほのぼのとした姿が『報道ステーション』の番組内で流れた。
東京五輪で内村が種目別鉄棒の予選落ちをした時、橋本は「代わりに僕が鉄棒で金メダルを獲って、航平さんの首に掛けたい。最高に一番きれいな色を、一番似合う人に掛けたいと思っています」と語っていた。橋本がそう語るほど、内村の鉄棒の実力は抜きん出ていた。
結果、橋本は有言実行の金メダル。しかし、その時点で内村はすでに選手村を離れており、「次に会った時に必ず掛けてもらいます」と機会をうかがっていた。
果たして、内村の首に種目別鉄棒の金メダルを掛けることに成功した橋本は、「願いが叶った」と、東京五輪でも見せたことのないような満面の笑みを浮かべていた。内村は「ありがとう」と照れ臭そうにしながら、ちょうど一回り歳下の橋本の気持ちを正面から受け取った。
橋本「決勝では直接対決になると思うんですけど…」
それから2カ月。いま2人は五輪後初めて同じ大会に出場している。福岡県北九州市で10月18日から24日まで開催中の世界体操選手権。20日に行なわれた予選で、内村はH難度の「ブレットシュナイダー」(後方抱え込み2回宙返り2回ひねり)やカッシーナ、コールマンなど離れ技をすべて成功させた。五輪でまさかのミスをしたひねり技を抜く安全策をとったこともあり、得点は14.300点(Dスコア6.3、Eスコア8.0)と低かったが、全体の5位で24日の決勝に進出した。
内村の演技中は、その前に演技を終えていた橋本が萱和磨と並び、立って応援していた。
「同じ舞台で、同じ日本代表として臨んでいましたから、ベストを出してほしい一心で応援しました。ライバルとかでなく、シンプルに同じ日本代表。ここをやり切ってほしいという強い思いで、和磨さんと応援しました」