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「金で金メダルを買った」と誹謗中傷された橋本大輝の東京五輪跳馬の採点だが… 審判員が語る当時の心境と《公正な評価》である理由 

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石井宏美

石井宏美Hiromi Ishii

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photograph byAsami Enomoto/JMPA

posted2021/11/09 11:00

「金で金メダルを買った」と誹謗中傷された橋本大輝の東京五輪跳馬の採点だが… 審判員が語る当時の心境と《公正な評価》である理由<Number Web> photograph by Asami Enomoto/JMPA

東京五輪個人総合で金メダルを獲得した橋本大輝

 実は我々がテレビで観ている映像と審判席からの見え方は少々異なる。審判員たちは跳馬の横に設置された席から、演技の全体から細部に至るまで細かくチェックしている。

踏切から着地までのチェックポイントは多くある

「踏み切り板を蹴り跳馬に手を着くまで、脚が開いていたり曲がっていないか、つま先がまがっていたか、そのときの角度はどうだったのか。空中で足を開いていないか、割れていないか、高さはどうだったのか、着地の際の姿勢がおじきをして低くないか、ブレていないかなど様々なポイントを注視しています」

 着地は視聴者に分かりやすいポイントでインパクトも大きいが、踏み切りから着地までのわずか1~2秒の間にこれだけのチェックポイントが詰まっているわけだ。

 橋本は着地で大きく乱れてはいたが、反面、踏み切りから着地姿勢に入るまで、シャオ・ルーテンと比べて減点が少なかった。たとえば跳馬に着手した後の空中技などは、シャオ・ルーテンに比べると橋本のほうが高く位置してる。テレビ映像でも比較して見れば明らかだ。

左足を守った橋本の“咄嗟の判断”だった

 橋本の実施はやや軸ブレが起きていたが、着地の際にマットの外に大きく右足を出したのは正解だったと高橋は見ている。

「もし左足も大きく動いてラインオーバーしていたら、減点は0.300点になる状況でした。中途半端にマットの角に右足を出して堪えきれずに追加で2歩3歩と動いたり、さらに転倒するようなことがあれば大きな減点になっていました。非常に賢明なさばきだったと思います」

 ラインオーバー覚悟で左足を守った橋本の咄嗟の判断が功を奏した形となっていたのだ。

 体操の得点は、技の難しさや演技内容技を示すDスコアと、技術や姿勢に関する演技の出来栄えを評価するEスコアで構成されている。五輪で高橋が担当した後者は、5名の審判が各々付けた得点から最高点と最低点がカットされ、中間3名の平均点が「決定点」となる。

 もし、この決定点から一定以上離れた採点をするとイエローカードが出され、自国の選手に有利な得点をつけたと判断されれば、資格停止の厳しい処分がくだされることもある。それほどのリスクを背負って偏ったジャッジをするとは到底考えづらく、そもそも採点競技においては公正が担保されなければ成立しない。審判は選手と同じように緊張感を持って舞台に上がる。4年に1度のオリンピックとなれば、そのプレッシャーが相当なものだということは容易に想像できる。

経験を積むほど「跳馬を回避したい」と思うワケ

 素人目線では、ゆか、あん馬、つり輪、跳馬、平行棒、鉄棒のなかでも演技時間の短い跳馬が、最も余裕を持って臨めるのではないかと考えていたが、実はまったく違うのだという。

【次ページ】 たった一瞬でも手元に目を落としたら……

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