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「くまのプーさんみたい」なのに人類最強だった皇帝ヒョードル カメラマンが見た“60億分の1”のリアル「氷の拳で背筋が…」 

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長尾迪

長尾迪Susumu Nagao

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photograph bySusumu Nagao

posted2021/11/07 17:01

「くまのプーさんみたい」なのに人類最強だった皇帝ヒョードル カメラマンが見た“60億分の1”のリアル「氷の拳で背筋が…」<Number Web> photograph by Susumu Nagao

「ロシアン・ラスト・エンペラー」という異名でも知られたエメリヤーエンコ・ヒョードル。どんなときも冷静沈着な“60億分の1”の男は、MMA界のパウンド・フォー・パウンドとして君臨した

 そんなヒョードルとの間に、忘れられない思い出がある。あるとき、パウンドの写真を撮影しようということになった。私が床に寝転がり、ヒョードルが上から私のカメラを殴るという、いわゆる選手目線での写真を撮ることに。彼も最初は笑いながら応じてくれたが、私は緊張感のある写真が撮りたかったので「もっと真剣にやってくれ」と通訳に伝えた。こちらの趣旨を理解したヒョードルは、すぐに試合モードになった。無表情で右の拳を振りかぶると、空気を切り裂く音とともに、パンチが目の前に……。彼が私にパンチを当てないことは分かっていたが、恐ろしかった。「氷の拳」で私の背筋が凍りましたよ。

「60億分の1」の男がついに迎えた落日

 2007年、PRIDEはUFCに売却された。その際、トップファイター達はPRIDEとの契約が残っていたこともあり、UFCへと移籍。しかし、ヒョードルはUFCで試合をすることを選ばなかった。彼は新興団体を中心に試合を行い、その後も無敗を続けた。

 2009年、ヒョードルはストライクフォースと契約を結ぶ。この団体は当時UFCに次ぐ世界2番目の規模を誇っていた(後にUFCが同団体を買収)。同年11月に試合を行い、2ラウンドTKO勝ち。このままヒョードルの連勝街道は続いていくかと思われた。しかし、翌年の2010年6月、PRIDEに参戦したこともあるファブリシオ・ヴェウドゥムの関節技(腕ひしぎ三角固め)に、まさかの一本負け。試合を見る限り、実力で負けたというよりも、ファブリシオの策にハマった試合だった。

 ヒョードルの次戦は2011年2月、このとき私は哀しい現実を目にすることになった。会場はマンハッタンに近い、イーストラザフォードにあるアイゾッド・センター。その日の夜は氷点下で、道路が凍結していたことを覚えている。ヒョードルの試合はメインイベント。この試合はアメリカのメジャーテレビで生放送もされた。対戦相手は198センチ、130キロのアントニオ・シウバ。シウバは足のサイズが33センチと巨大であることから「ビッグフット」とも呼ばれている。体格差はあるものの、関係者の間ではヒョードルが圧倒的に有利と思われていた。

【次ページ】 最強の座を手放し、皇帝は引退への道を歩む

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