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《大学ラグビー》帝京のスクラムに完全制圧された早稲田…でも、なぜかスコアは「7点差」“1年目”大田尾監督が試した素の力
posted2021/11/05 11:01
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Sankei Shimbun
歓喜の爆発。
ノーサイドの笛が鳴ると、帝京大の選手たちが大いに喜んだ。
帝京29、早稲田22。
試合終了間際には早稲田がゴール前に猛攻を仕掛け、同点のピンチを招いていたから、余計に喜びが大きくなったのだろう。たくさんの笑顔からは、この一戦に懸けた帝京の思いの大きさが伝わってきた。
会見場での岩出雅之監督は、じわりとうれしそうだった。
「早稲田大学に勝ったのは……3年ぶりになるんでしょうか。学生が喜んでいる姿を久しぶりに見られて、うれしく思います。早稲田大学の展開をどう止めるか。ディフェンスで頑張ろう。スクラムでプレッシャーをかけていこう。そこでの集中力を切らさずに、と」
大学選手権連覇が途切れ、ここ数年は明治、早稲田の伝統校の巻き返しに対して守勢に立たされていた。いまのチームには優勝を経験した選手がいない。それだけに、早稲田に勝った自信は帝京大を加速させる可能性がある。
早稲田を圧倒した帝京のスクラム
帝京の勝因は誰の目にも明らか。
スクラムの完全制圧だ。
前半5分は、早稲田のノックオンを起点としたスクラムで反則を奪うと、ゴール前のラインアウトからのアタックでトライ。
続く前半22分には、早稲田ボールのスクラムをプッシュ、ボールがこぼれ出たところを帝京のSH、1年生の李錦寿(リ・クムス)が拾ってトライに結びつけた。
帝京スクラムは、相手と組んだ後に「Ready Go!!」という掛け声とともに、FW8人が一気に押し込む。すると、早稲田FWの瓦解するシーンが続いた。
スクラムの要、3番の細木康太郎キャプテンはこう語る。
「最初のスクラムで、必ずプッシュしようと試合前から話していました。そしてヒットして、足を前に運べました。8人とも、ヒットした瞬間に自信を持って押し込むことが出来たんじゃないかと思います。試合を通して自分たちのスクラムを組み込んでいけたかなと思います」
細木主将の言葉通り、帝京はスクラムを基点に試合を支配した。
ところが、不思議な現象が起きた。あれだけ圧倒した前半にもかかわらず9点差で折り返し、試合が終わってみれば7点差。帝京はもっと差をつけて勝ってもおかしくはなかったはずだったが……。
原因は早稲田にあったと見る。