野球のぼせもんBACK NUMBER
〈新生・藤本ホークス始動〉常勝チームの復権は「柳田悠岐を育てた男」に託された 課題は“世代交代”だけでなく…
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byKYODO
posted2021/11/05 11:04
「柳田悠岐を育てた男」と称される藤本新監督。新体制で目指す常勝ホークス復権のカギは?
まずプロ入りしたばかりの頃の柳田のバッティングは「腕っぷしの強さだけで野球をやっている」と当時の秋山幸二監督が苦笑いするような、不格好なスタイルだった。ひと言で表すならば上半身打ち。両腕に目一杯力を込めてバットを振り抜くが、体幹が弱く、軸が作れずに体が前に突っ込んでいた。そしてバットが内側から出ずに遠回りするため、引っ張る打球はラインドライブばかりだった。正直なところ、素人目にも分かるほど欠点だらけだった。
そんな柳田に対して、指導者としてアプローチしたことは――。
「フルスイングだけは忘れるなよ。しっかり振れ」
細かなアドバイスはしても、あれこれ指摘してフォームを直すということはしなかった。王貞治球団会長から首脳陣全員へ「柳田のバッティングには触るな」との命が下っていたこともあったが、藤本が大事にしたのは、選手に押しつけないこと。そして、選手に考えさせた。自分で答えを導き出させた。
柳田「モノを言いやすかったし、1年目が藤本さんで良かった」
その中で練習にはとことん付き合った。ファームは試合が終わってからも練習を行う。あの頃ファーム本拠地だった雁の巣球場で土埃にまみれながら陽が傾くまで打球音を響かせ続けた。暗くなったら終わりではない。泥だらけのユニフォームのまま合宿所のある西戸崎の室内練習場へ移動だ。そこからまた特打が始まるのだった。
藤本は当時、このように話してくれた。
「柳田を表すなら、野球バカですよ(笑)。でも、だからこそ野球に対する姿勢は若手の中でも一番よかった。どんなコンディションでもフルスイングをするし、とことん一生懸命やる。特打のときは、僕がバッティングピッチャーをやりましたが、彼に投げるのは楽しいんですよ。正直30分も投げたらしんどいよ。だけど、アイツになら1時間でも投げたくなる。楽しませてくれた。そういう選手はなかなかいないですもんね。それに、こちらが言うことに対しての反応がいつも良かった。『ん?』といった拒絶がない。それは僕らとしてもやりがいがあった」
柳田にも1年目の頃を振り返ってもらったことがある。
「打てないというか、あの頃はバッティングに本当に自信がなかった。自分で考えても分からなくなっていた。そういう時に藤本さんがいろいろ教えてくれて、それで打てるようになりましたし、少しずつ段々と良くなっていったと思います。自分もモノを言いやすかったし、あの時が藤本さんで良かった」
もちろん柳田の成功例がそのまま他の選手に当てはまるわけではないが、選手を迷わせない、選手に自分で考えさせる、この2点はその後も常に大切にしていたように映った。