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〈東大野球部→キーエンス内定辞退〉浮かび上がるデータと現実の“ギャップ”⋯それでも齋藤周(21)は「プロ野球アナリスト」を目指す
text by
樫本ゆきYuki Kashimoto
photograph by東京大学野球部提供
posted2021/11/03 11:00
大企業であるキーエンスの内定を辞退し、プロ野球のアナリストの道へ進むことを決めた東大4年・斎藤周
「データに頼らない」と言い切るプロ選手も
このあたりの難しさについて、プロ野球団やメジャーリーガーへのデータ解析サービスを提供している株式会社ネクストベースの井手久純さんがプロの立場から説明する。
「データを研究する人は増えているけど、相手の分析をしすぎて自分の長所を見落とすケースが多々あるんです。昔の名選手たちは、勘や感覚を積み上げて結果を出してきた。でもその勘や感覚って人に伝えるのが難しいんですよ。その難しい部分をコンセンサスとして数値化してあげるのがデータ野球の役目なんですが、当然、選手の能力・フィジカルによってハマったりハマらなかったりします。『データに頼らない』と言い切るプロ野球選手もいます。データ野球の面白さであり難しさだと思っています」
齋藤もそのことは当然、理解している。その上で「もっと勝ちたかったなというのが正直な気持ち。『ハマれば勝てる』というフェーズを脱却できなかったことが悔しいです。とはいえ、入部してから3年間勝てなかった中で、最後の年に春秋と勝ち点をあげられたところに、これからもっと強くなっていく手応えを感じています」と、意思の強さをのぞかせた。
引退した後も分析を続け、後輩への置き土産として「東大野球部がホームランを増やすには」の持論を自身のツイッターに公開している。「NPBではホームランによる打点は全打点の37%。上位チームほどホームランで点を取っている。東大は春秋で1本もホームランを打てなかった」と、激励を込めたメッセージを送った。
キーエンスの内定辞退→アナリストの世界へ
今年9月、齋藤は、センサーや測定器を製造・販売する株式会社キーエンスの内定を辞退した。野球のアナリストとして社会貢献したい、と夢が変わったからだ。平均年収1500万円以上ともいわれる大企業を“蹴って”夢を追いかけることについて、野球部の仲間たちは「お、いいじゃん!」と、驚きつつも、むしろ面白がってくれたそうだ。「周ならやれると思う」と背中を押してくれた仲間もいた。