大学野球PRESSBACK NUMBER
〈東大野球部→キーエンス内定辞退〉浮かび上がるデータと現実の“ギャップ”⋯それでも齋藤周(21)は「プロ野球アナリスト」を目指す
text by
樫本ゆきYuki Kashimoto
photograph by東京大学野球部提供
posted2021/11/03 11:00
大企業であるキーエンスの内定を辞退し、プロ野球のアナリストの道へ進むことを決めた東大4年・斎藤周
分析チーフの佐々木拓実(4年)は「膨大にデータがあっても、どう生かすかを僕たち選手はわからないところがある。そこを周がわかりやすく説明し、アドバイスをくれた。相手投手の癖を読み取り盗塁数を増やすことができたり、打撃練習では相手投手のデータをマシンに入力し『仮想ピッチャー』を作って練習ができた」。「相手投手の予備知識があることで初見の球にビックリすることがなくなった」と話す選手もいた。
主将の大音周平(4年)は「齋藤のデータに全幅の信頼を置いていた。データがあることで自分がやるべき方向が定まり、支えられている部分が多かった」と、感謝を込めて話す。
リーグ最多の盗塁数、2季連続の勝利も…
今年の秋季大会、早稲田との第1戦の8回表。先頭の3番・蛭間拓哉(3年)の場面で、三塁手の大音が二塁手と右翼手の間に移動し「蛭間シフト」で守った。プルヒッターでありながら、昨年から逆方向への本塁打が増えている左の強打者・蛭間に対し「サードへのゴロは行かない」「ライトへの中距離を確実にアウトにする」という齋藤の判断が読み取れた。結果的には三振だったが、あたためておいたとっておきの奇策で相手にプレッシャーを与えた。
大音はデータに基づいた打撃の要望も齋藤から受けていた。「自分は打球速度が速いほうなので、『長打を打って欲しい』と言われていた。角度がつかず、ゴロになってしまうことも多かったですが、立教戦でタイムリーを打てたのは、分析によって狙い球が絞れたからです」。4打数2安打1打点3得点の活躍もあり、立教大戦は5年ぶりとなる2シーズン連続の勝利を果たす。
今季2勝目を狙った最終戦の法政大は0-0で引き分けだったが、奥野雄介(4年)―井澤駿介(3年)の継投で2安打無失点。バッテリーミスに泣いた前日の反省を生かして、井澤が高低左右のコースをしっかり投げ分けた。9試合122失点していた秋のリーグの締めくくりを「0」で抑えたところに、選手の、齋藤の意地が見えた。
強化した盗塁数はリーグ最多の19個。企画数22に対して、成功率86%は大きな自信となったはずだ。今後は「得点率11%」という課題に挑んでいくのが挑戦となるだろう。
今秋の戦績は1勝8敗1分。結果的には6位。力負けだったことは否めない。