Jをめぐる冒険BACK NUMBER
J2降格、監督交代・スタイル変更が報われた11年ぶりの戴冠… 《ルヴァン優勝後》こそ問われる名古屋とフィッカデンティ監督の真価
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byJ.LEAGUE
posted2021/11/01 11:01
ルヴァン杯優勝に円陣となって喜びをあらわにするフィッカデンティ監督と名古屋の面々。重要なのは“ここから”だ
稲垣は今大会、準々決勝の鹿島アントラーズ戦で2試合連続ゴール。FC東京との準決勝第2戦でも値千金のアウェイゴールを決め、この日もダメ押しゴールだけでなく、90分間攻守両面で利いていた。
稲垣と言えば守備職人の印象が濃かったが、今シーズンはリーグ戦でも8ゴールをマークしている。総合力が極めて高いMFへと変貌を遂げ、選手として突き抜けた感がある。
「カウンターはグランパスのひとつの武器で、そうした際に自分の走力が生きて、いるべきポジションにいられるというのが、自分にゴールが生まれる要因のひとつかなと思います」
稲垣はそう自己分析したが、いるべきところにいることは、当たり前のようで簡単ではない。
ピッチ上のどこで何が起き、次にどうなるか、展開を読む力が研ぎ澄まされてきたのだろう。セカンドボールを拾ってミドルシュートに持ち込むシーンの多さを見ても、シュートのうまさや走力だけで片付けられないセンスがうかがえる。
柿谷の“守備センス”にも唸らされる場面が
センスと言えば、柿谷にも唸らされる場面があった。
攻撃面では11分のバイシクルシュートと先制点につながるプレー以外に見せ場はなかったが、守備面で光るシーンがあった。
自陣バイタルエリアで乾貴士にボールが渡り、何かが起きそうな局面で、柿谷がさっと現れて横からボールを突いて取り返したことが2度あった。
特筆するほどのハードワークをしたわけでも、ボール回収に励んだわけでもないが、危険なところに鼻が利く――。
こういうところに彼なりの献身が感じられた。
マッシモ監督の「報われた」が意味するもの
試合後、マッシモ・フィッカデンティ監督は、コロナ禍で奮闘したチームを「報われた」という表現で労った。
「この1、2年、サッカーをするために我慢をしてきた。いろいろな犠牲を払ってきたことは、勝って報われると。そういう形になって本当に良かったと思う」
6月から7月にかけてタイでAFCチャンピオンズリーグ(ACL)を戦った名古屋は、現地で厳しいバブル生活を強いられたのち、帰国後も2週間ホテルで缶詰め生活を送った。
10月17日に行われた浦項スティーラースとのACL準々決勝も韓国での試合だったため、帰国した選手たちは愛知県内のホテルに滞在し、家族や友人と会えずにストレスと疲労がたまったまま、ルヴァンカップ決勝を迎えた。
GKミチェル・ランゲラックも「メンタル的に難しい」と語っていたが、そうした困難が、タイトルを獲得したことで報われたわけだ。
ただ、報われたのは、コロナ禍における苦労だけではないだろう。