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「毎日が、地獄みたいな日々」を乗り越えたオリックス“高卒大型ショート”紅林弘太郎(19)、スカウトも驚く成長の裏に何が?
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKYODO
posted2021/10/23 11:03
今季ショートのレギュラーに定着した紅林弘太郎。強肩を生かした守備やホームラン10本という記録は、さらなる飛躍を予感させる
4月は休養日を挟みながらの出場だったが、5月からはほぼ毎試合出場。紅林の表情から笑顔が消えた。毎日試合に出続けることがつらく、夏が近づくにつれ、「精神的にも体力的にもぶっ倒れそう」な状態に陥った。いっそ二軍に落としてほしいとまで思った。
しかしそんな時、中嶋監督に言われた。
「しんどくても、何が何でも試合に出すからな。結果が出る出ないに関係なく、毎日出ることが大事。毎日出ないとわからないことがある」
「マジかよ」
紅林は思わず心の中で叫んだ。
それでも、試合に出続けると、徐々にわかってくることがあった。
「『無理だよな』って自分の中では思っていたんですけど、監督は、結果や、打ったとか打ってないとかは関係なくて、見ているところが違うんだなと思いました。打てなかったあとの守備とか、声を出すとか、そういうところを見てるのかなと。打ったあとはみんな(守備も)調子がいいと思うんですけど、打てなかった時にどうするか」
拙さがあった紅林の守備は見違えるように成長していった。大柄な体を滑らかに使ってボールをさばき、何より送球が力強く、安定している。長年ショートを務め、今年はセカンドを任されている安達は、紅林についてこう語っていた。
「すごくよくなっていると思う。肩も強いですし。あんな肩、僕にはない。守備位置も深く守って頑張ろうとしているし、すごく楽しみだなと思います」
牧田も、「ショートに打球が飛んだ時の安心感が変わってきていると思う。例えばツーアウト2、3塁で、同点もしくは1点勝っている緊迫した場面での球際の強さが、この終盤戦出てきている。ベテランのピッチャー陣も、『ショートに飛んだらオッケー』みたいな、開幕時とは全然違う安心感、信頼関係を作り上げられているんじゃないかと感じます」と話す。
優勝争いで変わった紅林の意識
打撃も、打率こそ2割台前半だが、確実に粘り強さが出てきた。特に9月に吉田正尚がケガで離脱してからは、紅林が代わりに3番に入る試合が多く、相手投手の攻め方も厳しくなる中、「自分には正尚さんの代わりはできない。4番のラオウさん(杉本裕太郎)につなぐことだけ」とボールに食らいついてしぶとさを発揮し、勝負強さも見せた。今年放った10本塁打のうち5本を9月以降に記録している。
「以前は、『エラーしたらどうしよう』とか『ここで三振したらやばいな』という感じで思ってしまっていたんですけど、今は『やってやろう』という気持ちで常に臨んでいます」
それができるようになったきっかけが「優勝争い」だというから驚かされる。
「優勝争いをするようになってから、自分のことだけじゃダメだ、チームが勝てばいい、そう考えるようになりました」